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「柔らかい」シティプロモーション

「柔らかい」シティプロモーション

地域創生・地方創生の文脈において、シティプロモーションに取り組む自治体が加速している。シティプロモーションには、大きく2つの目的が含まれているようだ。

地域創生・地方創生の文脈において、シティプロモーションに取り組む自治体が加速している。シティプロモーションには、大きく2つの目的が含まれているようだ。すなわち、既に当該自治体に居住している市民の自治体への愛着や誇りを高め市外への流出を防ぐという目的と、市外に居住している人々に当該自治体の魅力をPRし交流人口増、移住・定住人口増を狙うという目的である。ブランド論の言葉を使えば、前者はインターナルブランディング、後者は通常のブランディングといえるだろう。例えば、いくつかの自治体において実施されているシティプロモーションの目的を見てみよう。



「ブランドイメージの統一化や認知度の向上を図り、国内外の多くの人を惹きつけると共に、市民の本市に対する関心、愛着、誇りの醸成を図る」

「定住人口と交流人口の増加を目指し、市民及び国内外の人々から選ばれる自治体となるべく、市内及び国内外における市の地域資源・魅力の認知度向上を図る」

「様々な魅力や価値を効果的、継続的に市内外へ発信するなど、シティプロモーション活動を積極的に展開していくことで、本市の知名度やイメージの向上及び都市ブランドを確立していく」

(いずれも下線は網野)
 
いずれの自治体においても、その狙いとするところは、市の内外の人々に市の魅力や価値を印象づけることにある。市内の人の印象はすなわち「愛着」や「誇り」と表現され、市外の人の印象は「知名度」「認知度」といった言葉で表される。

シティプロモーションを積極的に展開するのは、人口減少というマクロな時代背景において、「消滅自治体」等の名称で地方が失われる危険性が指摘され、多くの自治体の危機感が高まっていることが原因の一つであることは論を俟たないだろう。シティプロモーションの二つの目的の達成度を計測するとすれば、転出者数の減少、交流人口の増加、転入者数の増加、といった人口指標によって計測されることになる。つまるところ、人々の動きを生み出すことが、シティプロモーションの眼目なのだ。

しかし、ここで立ち止まって考えてみたい。上記のようなシティプロモーションが課題となる前提は何であろうか?
・人口が自治体単位で計測されるということ
・自治体単位で計測された人口予測を基礎に、危機感が生じていること
・その結果、自治体内外を明確に線引きしたうえシティプロモーションが実施される
ではなかろうか。

ここで、疑問をさし挟みたいのは、「シティ」という言葉を使うにあたって、そのシティが意味する地域を「自治体」という枠にはめ込んでいいものかどうか、つまり、「地域とは自治体のことか」という古くからの問題である。古くからの問題だからといって、解決済みの問題であるとは限らないので、取り上げてみたい。

地域づくりの古典的名著と言える「内発的発展の道」の著者守友(1991)によると、「地域の範囲をいかに規定するかという議論は、変革するべき課題に即して決まるのであり、その意味で地域の範囲は『伸縮自在』」であるとし、地域の課題を主体的に変革していく課題認識の方法が地域を捉える上で重要であると主張する。すなわち、「地域」とは予め与えられた境界線を持つものではなく、変革する必要に迫られて立ち上がった人々が共有する課題に応じて、捉え直すことが可能な柔らかいものと言える。

或いは、山下(2014)は次のように主張している。社会の単位である家族は、従来から移動を繰り返し分散して居住し(親は田舎、子供は都市、その子供は田園回帰など)、固定的な範囲内に居住してきたわけではない。そして、福島第一原発事故後の「住民票の二重登録化」の議論を土台に、「もはや自治体への所属を一つに限定し、二つの住所、複数の自治体所属を認めないことのほうが実態にあっていないわけだ。そしてこうしてみれば、一見人がいないと思う地域でも、実は多くの人が関わっていることも理解できるだろう。盆や正月の田舎を訪れてみればよい。あるいは田植えや稲刈りの時、祭りなどの行事の時、どこにいたかと思うほど人がそこにいるはずだ。」確かに、お盆やお祭、年末年始などのイベント時には、農山村の人口が驚くほど増える一方で、都市の車通りがグッと減少することは、多くの人が目の当たりにしていることだろう。そして、山下はこのような人の動きの実態を認めない人口議論が、むしろ見せかけの人口集中を加速化させ、人口分布の不均衡を生み出している可能性を指摘し、実態に即していない数字合わせだけの人口議論に警鐘を鳴らしている。(もちろん、何をもって「実態」とするのか、問うことは可能だろう)

このように考えていくと、行政単位の境界で線引きをしたシティプロモーションだけがシティプロモーションだろうか、という問いが生じる。もちろん、自治体が主体となってシティプロモーション戦略を策定することが課題だと考えるのであれば、その課題認識に基づけば、自治体=地域とするのも考え方の一つであろう。しかし、上の議論から、地域の把握の仕方はこの一つだけではないということがわかってくる。より重層的な捉え方もできるはずだ。もし、自治体だけを地域として捉え、その内外での人口の移動を考えるならば、多くの自治体同士での「人口獲得ゲーム」というゼロサムゲームを、いやパイが減っていくのでマイナスサムゲームとでも言うのだろうか、争わなくてはならない。このような不利な勝負の土俵にあえて乗せようと企む者があるとすれば、その方がどうかしているだろう。むしろ、減少していく人口を複数の地域における大切な共有財産とみなし、それらの地域が共存できる方法を探るべきだろう。

まずは、「当該自治体の居住者」と「そこへ訪れる外部の者」、という二分法を越えることが必要だ。その上で、当該自治体に現に住んでいる人、その家族や知人、さらにブランド論でいうところのロイヤルユーザー(熱烈なファンやその地域に魅力を感じる人)などを巻き込んだ、いわば「地域の価値を共に守り作り上げる人々のネットワーク」に主眼をおき、より「柔らかい地域」を重視したシティプロモーションが求められているのではあるまいか。

参照文献
・守友裕一1991「内発的発展の道―まちづくり、むらづくりの論理と展望」農山漁村文化協会
・山下祐介2014「地方消滅の罠」ちくま新書

文責:網野 善久

この記事のライター
地域ブランド調査2019(総合)
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