新型コロナウイルス感染症は、地域経済に甚大な影響をもたらしている。特に、観光業や飲食業への影響が大きいが、これらは地域経済において大きなウエートを占めている。
観光地の稼ぎ時ともいえるゴールデンウィークには、国内のすべての観光地が”閉鎖”状態となった。そして、夏休み期間中の観光ツアーは、予約キャンセルが相次いでいる。そのほかの予定されていた地域イベントの大半も中止や延期を余儀なくされている。
地域観光のけん引役となっていた外国人観光客(インバウンド)も、国際線が軒並み運休となり、東京オリンピック・パラリンピックも延期となったこともあり、ほとんどゼロベースになりつつある。仮に5月中に緊急事態宣言が解除されたとしても、地域観光の大きな推進役となっていたインバウンドが戻るには、多くの時間が必要となるだろう。
また、外出の自粛から飲食店は休店が続き、商店街はもぬけの殻の状態となっている。特に、日本はお酒を提供する夜の飲食に重きを置く店が多く、これは自粛が解除されたとしても、すぐに元通りに需要が戻るとは考えにくい。もともと財務状況に余裕がない事業者も多く、今回の自粛を機に閉店に追い込まれる店が少なくないだろう。
このままでは、地域経済は回復不能の最悪の状態となりかねない。
地域経済の復興に必要なこと
4月20日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策~国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ~」では、「次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復」を掲げ、以下のように述べている。
「感染症拡大の収束後の経済のV字回復のための反転攻勢を仕掛け、日本経済を一気呵成に安定的な成長軌道に戻す。このため、甚大な影響を受けている観光・運輸業、飲食業、イベント・エンターテインメント事業をターゲットに、官民を挙げたキャンペーンとして大規模な支援策を短期集中で展開することにより、消費を思い切って喚起し、地域の活力を取り戻す。その際、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の延期に伴う需要の先送りを踏まえた経済の下支えに対応する。」
ところが、ここにはこれを実行するための具体案は明示されていない。もちろん、地域ごとに状況が異なるだけに、十把一絡げの施策というわけにはいかないだろう。
実際には、こうした方策の上で、各地域が独自に具体的な解決策を作り上げていく必要がある。そこで、弊社では実際に地域が、地域の官民を挙げて経済活動の回復につなげるには何が必要であるかについて、まとめてみる。
「観光」の復興に向けて
新型コロナウィルス感染症の影響が最も大きいのは観光分野である。東日本大震災の影響から観光の復興においてインバウンドが大きく寄与した。2012年には840万人だった外国人観光客が2019年には年間3190万人にまで増えた。その経済効果について観光庁は4兆8113億円(2019年の外国人旅行消費額総額)と推定している。
当初は東京や大阪・京都、札幌、沖縄などの有力観光地に集中していたインバウンドも、徐々に様々な地域に入り込むようになりつつあった。
ところが、新型コロナウィルスの影響でインバウンドは壊滅状態となった。今後、世界的に渡航規制が解かれたといても、インバウンドが戻ってくるには1年以上、いや数年以上かかることになるかもしれない。
また、国内のツアーに関しても、現時点で夏休み期間中のツアーの予約状況は、先が見通せないことから非常に悪い。この先、新型コロナウィルスの感染の不安が払しょくされたとしても、宿泊施設や飲食店、急に回復するとは思えない。
さらに、新型コロナウイルスの感染対策で、帰省や旅行で人の出入りが激しくなれば、感染が広がる恐れがあるから、全国の自治体が「今は来ないで」と訴えたことが、地域への訪問の意欲を低下させることにつながっていることも懸念される。また、まるで検問のように駅や高速道路のICで検温をすることを打ち出した地域や、他県のナンバーの車に対して嫌がらせが横行した地域などは、今後の観光意欲の低下につながる恐れがある。
一方で、「会いたいからこそ、今は『会わない』ようにしよう。それが収束への早道だ」と訴えた島根県など、メッセージが高評価を得ている地域もある。「現在、飛騨はお休み中です」と、高山市、飛騨市、白川村は共同で打ち出した。
「飛騨は今、新型コロナウイルスの感染を防ぐため地域一丸となって取り組んでいます。(中略)この新型コロナウイルスが収束した折には、地域を挙げて、皆さまを歓迎させていただきます。 そして、飛騨の魅力を存分に楽しんでいただけるよう、精一杯のおもてなしをいたします。それまで、今しばらくお待ちいただきますようお願いいたします。」
こうしたメッセージが、地域のイメージダウンを免れたとしても、それが自粛解消後にすぐに活性化に結びつくかについて楽観視することはできないだろう。
半数は国内旅行を望んでいる
「新型コロナウィルスに関する調査」
この調査結果を見る限りは、新型コロナウィルス感染が終息した時には、観光に行きたいというニーズは少なくないことがわかる。
ところが、終息したとしても、しばらくの間は交通手段や宿泊施設、観光施設などは3密を避け、消毒などの対策を取らなくてはならない。何よりも、消費者の間で感染に対する不安感が完全には払しょくされるわけではなく、観光行動が元に戻るには多くの時間を要することになるのではないか。
でも、それでは遅すぎるのだ。
いますぐに活性化のための対策を打たなければ、倒産や廃業などが相次ぎ、各地の観光地は回復不能の状態になりかねない。
では、いま、各地では何をすればいいのか。これまでと異なる、効果的な取り組みとは何だろうか。
観光復活に不可欠な3つのテーマ
緊急事態宣言が解かれたとして、インバウンドや団体旅行などの回復には時間がかかるだろう。そうした事態に、地域がすぐに取り組むべきテーマとして、
(1)域内観光の活性化
(2)関係人口の活用
(3)キャンペーンの活用
の3つが有効であると考えられる。
この3つの取組について、具体的な内容について、次回解説する。
(文責:田中章雄・ブランド総合研究所社長)
※このコラムは5回連続での掲載を予定しています
第1回:コロナ復興、地域の具体的な活性化案 (今回)
第2回:観光活性化、3つのテーマ
第3回:飲食業の復興に必要なのは
第4回:イベント・スポーツ (近日公開予定)
第5回:商品、小売り、商店街
(一部変更になることがあります)
ご意見および各地での具体的な復興案の作成・提言については
tanaka「A」tiiki.jp までメールでご連絡ください
(「A」は@に置き換えてください)
ブランド総合研究所とアイブリッジが4月下旬に実施した「新型コロナウィルスに関する調査」において、「新型コロナの感染拡大が終息し、自粛が解除されたら、あなたはどんなことをしたいと思いますか」という問いの回答を左に示した。
その結果、約半数にあたる48.9%が「国内旅行」と答えた。(調査日:2020年4月25日~27日、調査対象:全国の20~89歳の男女(年代別・男女別にほぼ均等となるように回収・補正を行った)、回収数:19,029人)
調査結果のページ:
新型コロナウイルスの影響に関する消費者調査を実施
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