新型コロナウイルス感染症は、地域経済に甚大な影響をもたらしている。特に、観光業や飲食業への影響が大きい。緊急事態宣言が解かれたとして、インバウンドや団体旅行などの回復には時間がかかるだろう。そうした事態に、地域がすぐに取組むべき観光面での具体的な復興策についてまとめる。
観光面での地域復興案
インバウンド(外国人観光客)の回復は当分は見込めない。今、欧州をはじめ、ロックダウンや自粛が緩和される動きがあるが、国際線の航空便が通常運行に戻るのはまだまだ時間がかかるだろう。
国内観光に関しても、5月または6月に緊急事態宣言が解かれたとしても、社業や学業などの遅れを取り戻すために、今年の夏休みが例年より短くなるケースは少なくないと予想される。夏休み以外でも長期休暇は取りにくくなり、旅行支出の縮小につながることは間違いないだろう。
さらに、「新しい生活様式」においては「帰省や旅行はひかえめに 出張はやむを得ない場合に」と記されており、県を超えて遠出の旅行などは控えようという流れは続くものと思われる。
つまり、当面の間は各地の観光客は激減し、また一人当たりの観光消費額も例年より大きく縮小することになることが予想される。しかし、それでは観光地は大きなダメージを受けることになり、旅館やホテル、土産物店、観光施設などの倒産や廃業が相次いでしまう危険がある。
そうした中で、観光地を復活させるための方策はないものだろうか。
(1)域内観光
インバウンドおよび県外観光客が見込めない時だからこそ、近隣の地区の観光客を動員するような施策をとることを提言したい。すなわち「域内観光」を活性化させることだ。
域内観光は、日帰り、または一泊程度の短い観光であり、旅行単価は大きくはない。しかし、工夫次第で多くの集客を見込めるというメリットもある。
しかし、域内観光の場合、近隣であるだけにその地域の特徴を知っている人が多い。だからこそ、表面的な魅力で呼ぶのではなく、参加者が濃い内容の体験をしてその感動を実感し、SNSなどを通じて他者に伝えるのがよいのではないか。
このように、域内観光に有効なのは、従来型の“観る観光”ではなく、イベント、スポーツ、食・農などを取り込んだ“体験型観光”である。ただし、「体験」といっても収穫体験などの実益につながるものから、本格的なものまでさまざまである。地域資源を活用し、多くの人が“参加したい”と感じるような打ち出しができればいいだろう。
例えば、北関東3県。弊社の地域ブランド調査で常に「魅力度」や「観光意欲度」が低いという結果にヤキモキする人も少なくないが、実は関東居住者による観光意欲度があまり高くない。実際に、北関東の3県民に話を聞くと、県内の観光にはあまり行っていないという声が返ってくる。そこで、観光活性化の目玉の取組みとして、この夏に1回以上は、必ず隣町に観光に行くということを普及させてみてはどうだろうか。
同様に、例えば、茨城県民は栃木県や群馬県に行くようにする。もちろん、栃木県民は茨城県や群馬県に行く。そして群馬県民は、茨城県や栃木県に行くというようにする。つまり、自分の住んでいる県内1か所と、隣県に1回行くというわけだ。こうすれば、各県とも年間1000万人の観光集客に結びつく。住民とすれば、近隣なので支出は抑えられるし、日程も選びやすいだろう。
宿泊費、食費、土産物購入費、体験費用などの合計で1人当たり1万5000円の支出につながったとすると、1500億円もの消費効果につながる。
ただし、当然ながら「行きたい」「来てよかった」と思われるような魅力の創出は不可欠である。私が知っている限り、北関東には非常に多くの「知られざる魅力」が眠っている。地元民や隣県の人が過小評価している(あるいは認知・意識していない)だけなのだ。
もちろん、3密を避けたり、ソーシャルディスタンス、衛生面に気を付けるなど、感染拡大につながらないような行動は忘れないでもらいたい。
このような取組みは、すべての県で取組むとともに、例えば東北、北陸、中部、近畿、山陰、四国、九州など広域連携として取組んではどうだろうか。また、複数の市町村単位での地域連携という方法もある。
このような取組みは本来、コロナ対策に関係なく、各地の観光活性化策として取組むべきことだったと言えるかもしれない。すぐにでも始められる取組みであるだけに、各地で具体的な「域内観光の活性化戦略」を立案し、実践に移すなど、今回の観光危機を契機に本気で取組んでみてはいかがだろうか。
(2)関係人口
日本人のGWや夏休みの旅行自粛で、最も不満が大きいのは「帰省」ができないことではないだろうか。年に1回か2回のくらいしか故郷に戻れない帰省を、毎年とても楽しみにしている人は多いだろう。
弊社の調査でも「帰省」ができないことに対する不満は大きかった。だからこそ、緊急事態宣言が解かれたときの最初の旅行には、“帰省”先を選ぶいう人は少なくないと思われる。
こうした帰省者に対し、単に帰省するだけではなく、それを機に、その土地を観光するということを推奨してはどうだろうか。帰省する人は、地元に対する愛着が大きい人が多いはず。だからこそ、「あなたの地元の観光地を復興させるために、帰省観光しませんか?」と打ち出してはどうだろうか。
また、帰省先に親や親戚がいない人もいるだろう。また、しばらく帰省していない人もいるだろう。そうした人に対し、これを機に「里帰り観光」をすることを県人会などを通じて広く訴えかける。
福井県出身の私の場合も、久しぶりに福井に帰って、県内の観光地に行ってみると、新たな発見がたくさんあることに驚く。小さいときに訪れた土地であれば、その変わりように驚き、懐かしさに打たれ、新たな発見に感動する。
こうした驚きや感動は、SNSなどでの発信につながりやすく、自分の周りの人(非関係人口)に伝染することになれば、それが将来的な観光の拡大につながるのは間違いない。
さて、移住した人口を指す「定住人口」でもなく、観光に来た人口を指す「交流人口」でもないもので、地域や地域の人々と多様に関わる人口のことを「関係人口」という。帰省していない人でも、生まれ育った地域、両親の出身地や働いたことのある地域など、生涯を通じて様々な形で関わりを持つ地域(ふるさと)に対しては愛着が強く、こうした観光危機の時には、応援、貢献したい気持ちを持っている人は多いことだろう。
そのような人に対して、「これを機に、ふるさとを訪ねてみませんか?」と語りかけてはどうだろうか。
(3)Go To キャンペーン
政府では、内閣官房、経済産業省、国土交通省、農林水産省が共同で、Go Toキャンペーン(仮称)として、新型コロナウイルス感染症の拡大が収束した後の一定期間に限定して、官民一体型の消費喚起キャンペーンを実施することを明言している。具体的には、キャンペーン期間中の旅行商品を購入した消費者に対して、割引・ポイント・クーポン券等を付与するというもの。
これは、直接的な消費意欲の拡大につながる可能性はあるが、ややもすると、既存の人気観光地に集中してしまう可能性が大きい。参加する事業者にとっても、北海道や沖縄をはじめ、人気観光地や単価が高い観光地の方が一見メリットが大きく見え、旅行商品も打ち出しやすいだろう。そもそも、魅力的な旅行商品がない地域であれば、このキャンペーンの恩恵を授かることはできない。
そのためにも、このキャンペーンが始まる前に、復興のための旅行商品を作り出すことは必要であろう。もちろん、魅力的な観光資源が乏しい地域であっても、食や自然、歴史、体験などを活用し組合わせることで、他の地域にはない独自のものが作れる可能性は多いにある。
日頃は「忙しい」ことを理由に、こうした情報や観光コンテンツの整備に取組んでいない地域(だから人気が出ない)、これを機にこうした魅力創出に取組むべきではないだろうか。
(文責:田中章雄・ブランド総合研究所社長)
当コラムについて
※このコラムは5回連続での掲載を予定しています
第1回:コロナ復興、地域の具体的な活性化案
第2回:観光活性化、3つのテーマ (今回)
第3回:飲食業の復興に必要なのは
第4回:イベント・スポーツ (近日公開予定)
第5回:商品、小売り、商店街
(一部変更になることがあります)
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