地域にSDGsは必要か?
持続可能な開発目標(SDGs)とは,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発」のための国際目標だ。地球上の誰一人として取り残さないために、「貧困をなくす」「飢餓をゼロに」「人々に保健と福祉を」など17のゴールが設定されている。確かに、これらは世界の平和のために必要不可欠なもので、日本の各地域でも取り組んでいく必要がある。
しかし、いま各地域にすぐにでも取り組まなくてはならないは、地域の持続性を高め、「地図から消えないように」することではないか。つまり国連で作られた世界的なSDGsの目標とは別に、地域が持続するための「地域版SDGs」が必要なのだ。
地域の持続性は、住民の満足と幸福から
地域が持続するために必要なのは、住民の生活における満足度を高め(不満を少なくし)、「幸福だ」との思いを高めること。世界には明日食べるものもなく、飢饉で命を落とす人も少なくはない。そのような心配は日本にはほとんどないかもしれないが、それでも地域間では生活の豊かさに差があるのも事実だ。
あなたの地域の住民が「こんな生活は嫌だ」、「ここに居ては幸せになれない」と感じているとしたら、それが人口流出につながり、地域疲弊につながってしまうことになる。住民誰もが笑顔で生活し、多くの住民の生活が豊かになることが、地域が持続するための目標には不可欠ではないか。
このグラフは全国47都道府県の住民に「あなたは幸せですか?」と聞いた結果をまとめたもの(「地域版SDGs調査2019」。調査日:2019年7月12~29日。対象15歳以上の男女。総回収数15,925人(各県の住民がほぼ均等になるように回収))
その結果、26.4%が「とても幸せ」と答えるなど、6割以上は「幸せ」を感じているという結果になった。そ一方で、16%以上は「幸せではない」と答えている。年代別では特に幸せではないとの回答は40代が最も多く、女性より男性の方が多いのが特徴。地域別では東北が総じて低く、西日本が高いという結果になった。
「あなたは今の生活に満足していますか」という設問の結果は「とても満足」と答えたのは13.1%と、前記の「とても幸せ」との回答の半分以下だった。幸せではあっても生活には満足していない人が多いということになる。
また、住民の2割以上が生活に満足していないという結果になった。幸福度と同様に40代で満足していない人が多い(24.3%)という結果だが、実は10~20代でも17%が満足していないと答えているように、決して若年層の満足度が高いわけではない。地域別では、東北の住民の26.7%と多く、近畿が17.4%と最も少ないという結果になっただけに、地域別にその申告度合いは異なっているようだ。
都道府県の幸福度および満足度のランキングは以下からご覧ください
・都道府県・幸福度ランキング2019(都道府県版)
・都道府県・満足度ランキング2019(都道府県版)
住民の最も多い不満は?
住民の生活満足度は、もちろん個人や家庭内での要因によるものがあると思われるが(幸福度の場合は個人や家庭内での要因に大きく影響を受けていると思われる)、生活環境が影響している点も大きいと思われる。
そこで、自分や家族の問題として抱えている悩みがあるかを聞いたところ、「不安や悩みはない」と答えた人は16.8%だった。すなわち、住民の83.2%が何らかの悩みを抱えていることになる。
具体的な悩みの内容として、金銭や食、健康、教育、仕事、まちなどに関する48項目の項目と「その他」の中から選んでもらったところ、「不安や悩みはない」と答えた人は16.8%だった。すなわち、住民の83.2%が何らかの悩みを抱えていることになる。
最も多かったのは「低収入・低賃金」で35.8%、次いで「ストレス」、「貯蓄・投資」、「運動不足」がいずれも20%以上となった。
なお、回答者1人につき選んだ不満や悩みの数は平均3.36個だった(「不安や悩みはない」と答えた人は0個として計算した)。
満足度に相関の強い悩みとは
では、それらの不満や悩みの中で、生活の満足度に最も影響しているものがどれかを調べてみたところ、「電車やバスの路線廃止・減便」、「病院・医療施設の不足」、「低収入・低賃金」などの影響が大きいという結果になった。
これは、47都道府県における満足度の結果と、悩みや不満の項目との相関を求めてみたもの。数字は相関係数で、悩みや不満が大きいほど満足度が低くなっているため数字がマイナスになっている。そしてマイナスの値が大きいほど相関が強い、つまり影響が大きいということになる。
最も影響が大きいのは「電車やバスの路線廃止・減便」で相関係数は-0.71。次に「病院・医療施設の不足」で-0.7。これらはいずれもマイナスの値が0.7を超えていることから「かなり強い相関がある」ということになる。
ちなみに、「電車やバスの路線廃止・減便」で悩んでいると答えたのは47都道府県平均で6.3%。これは交通渋滞・混雑の3.9%や、「個人情報漏洩」の2.5%よりはるかに多い。
次に多いのは「低収入・低賃金」、「人材不足・後継者不足」、「就職難」、「男女不平等・女性が活躍する場の不足」などの「働く」ことに関する悩みや不満が続いた。これらも相関係数のマイナスの値は0.6を超えており、強い相関があると言うことになる。
つまり、地域の持続性を高めていくためには、「働く」という面での魅力をいかに高めていくかが重要であるということになる。
住民視点でのSDGsとは
これらの結果を見る限りは、地域の持続性には大きな課題があることがわかる。「地方創生」の掛け声のもと、各地で様々な取り組みが行われている。その一方で、今回の調査からは47都道府県の平均で20%以上が生活に現在の生活に満足していないという結果が浮き彫りとなった。
特に働き盛りである40代でその不満が大きい。つまり、いくら声高にUターンやIターンとして若年層を都心から呼び込んだとしても、住民が生活に満足していなければ、定着せず、流出増となってしまうからだ。
そのためには、実際の不満の大きな要因である「地域交通」や「医療・健康」、そして「働く機会・環境」などに関する具体的な住民の悩みや不満の解決につながるような具体的なアクションを打ち出せるかにかかっている。
もちろん、これらはいずれもSDGsにつながるものである。つまり、SDGsというものはなにも世界規模での大きな(遠い)取り組みではなく、地域住民の生活にも密接に関係している項目であることがわかる。
地域住民の視点でSDGsへの取り組みとは何か、どのような取り組みが必要であるかを考えることが、地域の持続性を高めるためとても重要であることを、今一度、関係者は考えてみる必要があるだろう。
(文責:ブランド総合研究所社長 田中章雄)
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