明治時代には日本で最も人口が多かった新潟県。当時の日本の人口4000万人の約5%にあたる約180万人が居住し、東京府(当時)や大阪府、愛知県よりも多かった。 当時の日本は人口の9割近くが農業を営んでいた時代で、米の収穫量が多い新潟県に人口が集中していたからだ。
新潟県は現在も農業は盛んで、コシヒカリの収穫量は日本一である。特に魚沼産コシヒカリは高級ブランド米として評価されているほか、洋ナシのル・レクチェや、イチゴの越後姫などの新たな農産品ブランドの創出にも力を入れている。
その結果、消費者による「地元産の食材が豊富」のイメージは北海道、青森県、岩手県に次ぐ4位と高い。 米を原材料とした米菓や日本酒の生産量も多く、おけさ柿、笹団子、へぎそばなどの特産品もあり、まさに食の王国である。
食以外では燕・三条地区の金属食器が国内シェアの9割を占め、小千谷縮や塩沢紬などの伝統的工芸品も多いなど、特産品や食の豊富な豊かな県だ。
ところが、新潟県のイメージは2014年までは年々低下していた。11年には23位だった魅力度は、14年には35位へと順位を下げてしまい、新潟ブランドの崩壊が危ぶまれていた。
◆米、酒、雪の魅力低下が原因か
その原因の一つは新潟のブランド力を支えていた「米、酒、雪」という3つの主力資源の魅力の低下だ。
例えば「米」については、北海道産米の評価も生産量も高まり、全国各地でブランド米が登場したことによって新潟産コシヒカリの絶対的な評価がやや低下している。「ゆめぴりか」や「つや姫」「ひとめぼれ」「森のくまさん」など、食味ランキングでも特Aに評価されたものが続々登場し、高い人気を博している。
「酒」については、ビールやハイボール、焼酎、ワインなどアルコール飲料の多様化が進み、若い世代をはじめ日本酒離れが進んでいる。
「雪」については、若者のスキー人気が低迷しており、新たなファン層をつかんだスノーボードをターゲットに取り込んでも、全国的にスキー場の経営が厳しい状況になっている。その閣下、越後湯沢などの豪雪地帯にあるスキー場やリゾート地としての人気に陰りがでてきている。
つまり、これまでの新潟の魅力の源泉だった「米、酒、雪」への興味が薄れつつあることにより、新潟の魅力が低下してきているということだ。
◆NGT48が若者を呼ぶ
ところが15年1月に新潟のイメージを一変させる大ニュースが日本中を駆け巡った。アイドルグループAKB48の7番目の姉妹グループとして「NGT48」が新潟市に誕生するというものだ。
3月には北原里英がキャプテンとして移籍、柏木由紀が兼任することが発表され、4月には一期生の募集が開始、5月には専用劇場の発表、7月にオーディションの審査などと立て続けにニュースが流れた。
NGT48誕生をきっかけとして、新潟県に対するイメージは急変した。とくに影響を受けたのは若い世代だ。 例えば14年の調査では20代の回答者で新潟県を「とても魅力的」「やや魅力的」と答えたのは計16%にすぎなかったが、15年は計52%と半数を超えた(グラフ参照)。
さらに3月に開業した北陸新幹線の効果により、旅やグルメの情報が広く伝わったこととも連動して、新潟県の魅力度やイメージは大きく上昇した。
ところが、喜んでばかりはいられない。15年は新幹線とNGT48誕生のニュースで注目を集めたが、その本領が試されるのはこれからだ。コンサートやイベントなどに来訪したファンが、新潟の魅力を実感してもらって新潟のファンになってもらえることができれば、今後の持続的な魅力度向上につながるだろう。しかし、そうした連携がうまくいかなければ、一時のブームで終わり、14年までのように再び魅力低下の道を歩む危険もある。
新潟のイメージを引っ張ってきた米と酒、雪は、時代の変化とともに魅力が薄れてきてしまった。これから若い世代も好むような新たな食や商品、観光メニューが開発・提供されるか、あるいは新潟独自の新しい魅力が作られるようになれば、新潟県は再び輝きを取り戻すだろう。新潟県の本気度と実力が試されるのはこれからである。
◆新潟県の主要項目 (かっこ内は昨年の値。△は上昇した項目)
- 認知度 21位(22)△
- 魅力度 19位(35)△
- 情報接触度 26位(26)
- 居住意欲度 29位(43)△
- 観光意欲度 22位(29)△
- 産品購入意欲度 13位
◆新潟県の主なイメージ項目
- スポーツの参加・観戦14位(18)△
- 自然が豊か 13位(11)▼
- 食材が豊富 4位( 3)▼
- 食事がおいしい 4位( 9)△
- 土産や地域産品 8位(15)△
- 伝統技術 12位(24)△
- おもてなしがよい 13位(19)△
- 宿泊施設 12位(20)△
- 交通の便がよい 12位(22)△
- ご当地アイドル 5位(40)△ ※情報の接触度
地域ブランド調査の結果は http://news.tiiki.jp/survey2015 のページに掲載)
執筆・文責:田中章雄 (ブランド総合研究所社長)
(※この記事は、週刊ダイヤモンド2016年1月9日号に掲載したの記事を、筆者が加筆・修正したものです。
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