今年の調査で、全国47都道府県の中で、最も魅力度の伸びたのは福井県だった。
福井県を「魅力的」と答えた人が2014年には16%だったが、2015年には24%にと1.5倍に増えた。これによって、魅力度ランキングは昨年の45位から29位と大幅に上昇した。
福井県の魅力度が大きく伸びた要因として、今年3月に金沢駅まで開通した北陸新幹線による波及効果だと思う人は少なくないだろう。確かに、関東に居住している人からの評価が高まっており、2014年に5点だった魅力度が15年には10点と倍増しており、順位も最下位の47位から38位へと大幅に上昇していることから、新幹線効果が表れたと考えられなくもない。
ところが、石川県や富山県の場合も関東居住者からの観光意欲度がは上昇がみられたが、その一方で魅力度そのものはあまり大きく伸びていない。
つまり北陸新幹線は「観光」という直接的な効果はあるが、魅力度そのものを高める効果はあまり強くないという傾向があることになる。
しかし福井県はそうではない。 関東居住者からの観光意欲度43位から41位へと上昇しているが、魅力度の伸びはそれを大きく上回っている。すなわち今回の福井県の魅力度の上昇は、新幹線以外の大きな要因があるということになる。
◆恐竜王国に延べ700万人
そこで浮かび上がるのは、福井県が大きく力を入れている「恐竜」による効果だ。
2000年7月に福井県勝山市に開設した福井県立恐竜博物館は、長さ84㍍、幅55㍍、高さ37㍍の巨大なドーム型の恐竜ホールなどから構成されている。そこに42体の恐竜骨格と1000を超える標本が展示されている。
大型復元ジオラマや映像などもあり、質・量ともに日本最大規模の恐竜に関する展示を誇っている。今では年間約100万人もの来場者を集めるほどの人気で、今年9月には延べ来館総数が700万人を超えた。
さらに、フクイサウルスなど新種の恐竜化石が発見された発掘現場を14年7月に野外恐竜博物館として整備した。今年3月には福井駅前に恐竜の動くモニュメントを設置、駅舎に恐竜ラッピングを施すなどで、「恐竜王国福井」を打ち出している。
今回、福井県の魅力度が大きく上昇した最大の理由は、「恐竜」を前面に打ち出したプロモーションの成果と言えるだろう。その証拠に、昨年と比べて20代など若い世代からの評価が急激に高まっていることがあげられる。
また、福井県は「教育・子育ての県」のイメージが今年初めて全国1位となった。実は福井県は数年前から全国学力テストで中学生の結果が全国1位となるほどの、教育県である。こうした「教育」面での実力と、恐竜というイメージシンボルが結び付いて、「教育・子育て」というイメージが大きく膨らんだのだろう。
ブランドと言うのは、強いイメージ要素が生まれると、それに関連している他のイメージも引っ張り上げられるという「イメージの連鎖」というものが起こりやすい。したがって、今後も福井県が「恐竜」と連動するような取り組みやイベントなどを積極的に取り組むことにより、福井県のイメージはさらに高まっていく可能性は大いにある。
◆伝統技術も評価↑
ところで、昨年暮れのNHK紅白歌合戦で歌手の水森かおりが、世界的なデザイナー桂由美が越前和紙の花をあしらったドレス姿で熱唱したのを覚えているだろうか。桂由美は越前和紙を素材にしたオートクチュールを手掛けているほか、パリコレでは折り鶴をステージ装飾に使用している。これをきっかけに、越前和紙ががぜん注目を集めている。
実は、福井県には、越前刃物、越前焼、越前漆器などの伝統工芸が豊富にある。また、リアス式海岸に代表される自然や、越前ガニなどの食材も豊富だ。
ところが、これまで魅力度や観光意欲度など、多くの指標が全国平均を下回っている。その理由として考えられるのは「福井と言えば△△」というブランドコンセプトが徹底されていなかったことだ。 また、これらの豊富な地域資源が具体的な産業、観光、商品化に有機的につながっていない。
福井県の活性化をめざすのであれば、地域資源を活用した新しい産業創出に取り組むべきだろう。例えば県内に多いIT企業や地場産業や観光を連携させて、福井らしい新産業創出につなげるのもよい。もちろん外国人観光客(インバウンド)への対応や輸出などにもつなげることで、グローバルな視点でも成長が見込めるだろう。
かつて福井の大地を恐竜が闊歩していたように、豊富な地域資源を連携させた福井の起業家が世界を駆け巡るようになることを切に期待したい。
◆福井県の基本指標 (カッコ内は2014年の結果) △は上昇したもの
- 認知度 41位 (45位) △
- 魅力度 29位 (45位) △
- 情報接触度 36位 (44位) △
- 観光意欲度 36位 (42位) △
- 居住意欲 42位 (47位) △
- 産品購入意欲度 30位 (-)
- 愛着度 35位 (21位)
地域ブランド調査の結果は http://news.tiiki.jp/survey2015 のページに掲載)
執筆・文責:田中章雄 (ブランド総合研究所社長)
(※この記事は、週刊ダイヤモンド2015年11月7日号に掲載したの記事を、筆者が加筆・修正したものです週刊ダイヤモンドの「勝手にケンミン創生計画」はコチラをご覧ください)