静岡県にはバンダイ、タミヤ、アオシマなど国内プラモデルの有力メーカーが多く、「模型王国」と呼ばれている。その由来は、実は徳川家にある。
◆家康公がプラモデル王国の原点
江戸時代に徳川家康が大御所となって駿府城に隠居する際に、駿府城の大改修を行ったが、その際に全国各地から優秀な宮大工や彫刻師などが集められた。もともと静岡県には良質な木材が多く、改修後は集められた宮大工や彫刻師などは、その技術を使った家具や木工品が地場産業として定着した。
これらの技術を元に、1932年に木製の動力付き模型飛行機を発売したのが、飛行家として活躍した青島次郎氏だ。また、1947年に木製の船舶や飛行機の模型の製造を始めたのが田宮義男氏。彼らが青島文化教材社(アオシマ)、タミヤを創業した。
1960年代には素材としてプラスチックが登場。各社は培った技術を使ってプラモデル製造を開始し、突出した技術をもったこれら2社が業界をひっぱり、静岡県が国産シェアの約90%を占めるに至った。
つまり、江戸時代の徳川家康が「プラモデル王国・静岡県」の生みの親だと言うことになる。
◆県は東西分断状態?!
静岡県には、プラモデルの他にも、ヤマハや河合楽器製作所(カワイ)などの楽器、ホンダやヤマハ発動機などのバイクや自動車、製紙産業などの第二次産業が定着している。また、緑茶やみかん、メロンなどの農業も盛んで、駿河湾の桜エビや、浜松のうなぎなどの漁業も盛んである。
世界遺産に登録された効果で富士山のほか、人気の温泉地や海水浴場も多い伊豆半島、マリンスポーツの盛んな浜名湖など、日本を代表する観光地も数多い。
県内にはイメージの高い市町村が多く、市町村の魅力度ランキングでは熱海が全国15位、伊豆市23位、浜松市55位、伊東市59位、下田市88位と100位以内に5市がランクインしている(1000市区町村中)。
このように県内には日本を代表する企業や産業、農林水産品、観光地、温泉、そして何より世界遺産・富士山がある。これだけ素晴らしい地域資源が豊富にありながら、静岡県の魅力度は20位と決して高くはない。その原因は市町村の連携不足にある。
静岡県には東西に2つの政令指定都市があるが、静岡市は関東経済圏とのつながりが強く、一方で浜松市は中京経済圏とのつながりが強い。観光地のうち伊豆や熱海は関東からの観光客が大半を占める一方で、浜名湖は中京圏からの観光客が多い。もし、静岡県が東西に分断されてい続けたのでは、県全体としての魅力が低下してしまう。
◆中国人観光客が急増
その静岡県にいま大きな追い風が吹いてきている、それは中国など外国人観光客の急増だ。日本中で外国人観光客は増えているが、世界遺産・富士山を有する静岡県は、他の県より増加率が高い。
特に恩恵を受けているのは静岡空港。かつては利用客が少ないと問題視されていた静岡空港が、今は中国の航空会社の直行便が増えて、利用客が急増している。
2015年1〜11月の国際線の空港利用者数は29万人で、国内線の約20万人を大きく上回っている。そのうち中国路線(台湾を除く)の利用者数は20万人以上だ。中国路線は上海、南京、天津など14路線が就航しており、空港別の中国人の出入国者数では全国6位で、福岡や新千歳の各空港よりも多い。
これは、成田空港や羽田空港の離発着枠が満杯になっており、急増する中国人の観光客の受け皿として注目されているという要因もある。関東と近畿の中間地点にあり東京や京都へのアクセスが便利であることと、北海道や沖縄への直行便もある点もポイントが高い。
実際に静岡空港を利用した中国人は、富士山や御殿場アウトレットなどに大満足しており、継続的に利用されている。
この状況はチャンスである。前述のように海外で人気の高いプラモデル、さらに楽器やバイクなど、外国人によく知れた企業やブランドも多い。単に富士山などの観光地を巡るだけではなく、これらの客を県内各地に誘引し、商品の購入やイベントへの参加、飲食などにつなげることをもっと積極的に取り組んでもらいたい。
徳川家康公に倣って県内を統一し、魅力を丸ごと打ち出せていけば、国内外の消費者・観光客に静岡県全体の魅力がもっと高まるのは間違いない。
◆静岡県の主要項目 (かっこ内は昨年の値。△は上昇した項目)
- 認知度 13位(11)
- 魅力度 20位(14)
- 情報接触度 21位(14)
- 居住意欲度 12位(10)
- 観光意欲度 22位(15)
- 産品購入意欲度 12位
◆静岡県の主なイメージ項目
- 自然が豊か 8位( 8)
- 温泉やレジャー施設 11位( 4)
- スポーツの参加観戦 12位(12)
- 土産や地域産品 4位( 8)△
- 食材が豊富 11位(11)
- 食事がおいしい 21位(20)
- 交通の便がよい 13位(11)
- 産業や企業がある 9位( 7)
- 歴史人物にゆかり 25位(20)
地域ブランド調査の結果は http://news.tiiki.jp/survey2015 のページに掲載)
執筆・文責:田中章雄 (ブランド総合研究所社長)
(※この記事は、週刊ダイヤモンド2016年1月30日号に掲載したの記事を、筆者が加筆・修正したものです。
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