イギリスのテレグラフ紙によれば、日本食ブームを背景にワサビの世界的需要が増えているらしい。しかし手間や人件費が多くかかることから日本での生産規模は縮小し、かわりに海外のワサビ生産企業が供給源となっている。
日本人とワサビの歴史は古く、飛鳥時代には薬用に用いられ、室町時代には現代と同じ薬味として使い方が定着した。一般庶民が寿司・蕎麦に入れて食べるようになったのは江戸期といわれ、以来、現代に至るまで日本の食にとって欠かせない薬味となっている。
海外の反応はどうか。「寿司は好きだがワサビは苦手」「罰ゲームで食べて吐き出した」といった否定的・冗談半分のものから、「風味がたまらない」「えんどう豆のピューレにワサビを混ぜて、スモークサーモンに合わせると最高」といった「通」よりのものまで様々である。
口から鼻に抜ける独特の味覚は、唐辛子にはない辛さであり、これが癖になる外国人も少なくないようだ。なんといっても寿司はもう「ブーム」ではなく海外では「定番」と化しており、それにともなってワサビに触れる機会は格段に増えている。
世界的に見ると、日本食レストランを中心にワサビの需要が増加し、少しずつ一般家庭にも浸透しているようだ。ただしこのワサビには2種類あって、1つが西洋ワサビをベースに着色した市販のワサビ(粉・パック入り)。そしてもう1つが日本原産種の本ワサビ(学名:Wasabi Japonica)である。
つまり高級な日本食レストランには本ワサビが、もっと安い日本食レストランや家庭向けには加工ワサビが流通している。そして高級レストランの需要に答えるために本ワサビの栽培にのりだしているのがオーストラリア、イギリス、カナダの企業などだ。
もちろん日本からの本ワサビ輸出も取り組まれている。日本の主な産地といえば、静岡県、長野県、東京都(奥多摩)、島根県などだが、日本加工わさび協会の発表によると、H25年度輸出額は前年比97.6%増で30億6738万円であった。近年、何かとインバウンドがクローズアップされているが、ぜひ本ワサビのアウトバウンド(海外展開)にも期待したい。
(執筆:金築俊輔 ブランド総合研究所 シニアコンサルタント)