「常陸の国は国広く、山も遥かに田畑は肥え、広野の拓けた良き国である――」
奈良時代に編さんされた常陸国風土記に記されたこの内容は、茨城県がとても豊かな県であることを物語っている。人口約300万人、日立市など県北部や鹿嶋市などの臨海部は工業が盛んで、製品出荷額は全国8位。一方、農業産出額は北海道に次ぐ2位で、メロンなど出荷額が1位の品目は数多い。沖合は黒潮と親潮の合流による優良な魚場で、漁獲高は7位だ。
しかも、鉄道も道路による交通の便もよいため、これまで人口も増え、商品も売れて豊かさを享受してきた。実際、一人当たりの県民所得は全国5位と高い。 ところが、豊かであることとは裏腹に、ブランドイメージはあまり高くはなく、魅力度ランキングでは3年連続の最下位となってしまった。しかも2012年以降は魅力度の点数自体が低下しており、由々しき事態だ。
◆最下位脱出のカギは西日本
茨城県の魅力度最下位のニュースは多くのテレビや新聞などで取り上げられ、バラエティ番組などで茨城県出身のタレントや議員などが、イメージが低い原因やイメージアップの方策について意見を出し合い、盛り上がっている。インターネット上では「最下位であることが誇り」などという開き直った発言もある。県は「なめんなよ・いばらき県」と銘打ったキャンペーンを展開し、イメージ向上に真剣に取り組んでいる。
それでも茨城県の魅力度は47位の座から脱出することはできていないわけだが、脱出の可能性はないのだろうか?
実は茨城県の魅力度を分析してみると、関東居住者による魅力度は38位と決して低くはないことに気づく。しかも前年の42位より上がっている。つまり、前出のような茨城県の努力は、関東地方では報われていることになる。ところが近畿、中四国、九州の居住者からの評価はいずれも最下位だ。つまり、茨城ブランドの弱点は西日本に茨城県の魅力が伝わっていないことである。
確かに北関東はいずれも東京など首都圏から距離が近く、交通の便が良いことを武器にこれまで発展してきた。しかし、これは西日本からすれば、魅力にはつながらないということになる。茨城県が最下位脱出するカギは西日本の攻略にあるのではないか。
◆つくば市はIT・先端技術で全国1位!
最大の課題は、茨城県に突出した魅力がないということだ。茨城県には300万人もの人口がいるが、実は人口が30万人を超えている都市がひとつもない。同様に、茨城県にある市町村のうち、魅力度ランキングで全国順位が100位以内のものがひとつもない。
県内の市町村で最も魅力度が高いのはつくば市だが、その順位は全国171位。また県庁所在地である水戸市は197位だ。つまり、茨城県のイメージを牽引するような都市や市町村がないことが、茨城県のイメージを弱くしていることになる。
もちろん、茨城県内には、魅力的な市町村がある。その候補の最先端は「つくば」だ。つくば市は「ITや先端技術」のイメージでは全国1位で、「学術・芸術」でも2位、「教育・子育て」でも9位と非常に高い評価を得ている。つまり、この強いイメージを茨城県のイメージとして打ち出すことができれば、「茨城=IT・先端技術」のイメージが構築できて茨城県のイメージも高まるという図式だ。
しかし、残念ながら現時点ではその高いイメージを茨城県のイメージとしては十分には定着・活用できているとは言えない。茨城県の「ITや先端技術」のイメージは全国5位で、「学術・芸術」のイメージは7位だ。ブランドの定説でいえば、柳の下にどじょうは3匹まで。つまり、イメージで全国3位までに入らなければ、そのイメージが全体のイメージを引っ張り上げるだけのパワーは生まれない。
また、茨城県内にあるその他の市町村も、IT・先端技術のイメージを連携・活用することが十分にはできていない。つまり、つくば市の周辺市町村が束になってITや先端技術、教育などの、つくば市の持つイメージを使った活性化戦略を打ち出すべきだろう。
つくば市の周辺市町村が束になってITや先端技術、教育などの、つくば市の持つイメージを使った活性化戦略を打ち出すべきだろう。目立った魅力がないのなら、隣の市の魅力に便乗するべきだ。同様につくば市も周辺市町村のイメージや資源を活用すれば、相乗効果を発揮して食や文化などのイメージが高まり、つくば市の魅力度ももっと高くなるはずである。
これは水戸市や土浦市、日立市、鹿嶋市にも同じことが言える。周辺の市町村を巻き込んだ広域連携で思い切った戦略をとることこそが茨城県のイメージアップにつながるだろう。
◆茨城県の主な指標(カッコ内は2014年の結果) △は上昇したもの
- 認知度 39位(31位)
- 魅力度 47位(47位)
- 情報接触度 41位(31位)
- 観光意欲度 47位(47位)
- 居住意欲度 34位(38位)△
- 産品購入意欲度 46位(-)
- 愛着度 44位(41位)
地域ブランド調査の結果は http://news.tiiki.jp/survey2015 のページに掲載)
執筆・文責:田中章雄 (ブランド総合研究所社長)
(※この記事は、週刊ダイヤモンド2015年10月24日号に掲載したの記事を、筆者が加筆・修正したものです週刊ダイヤモンドの「勝手にケンミン創生計画」はコチラをご覧ください)