「おいしい山形県」・・・これは2001年から続けている山形県産の農産物等の統一キャンペーンのキャッチフレーズだ。サクランボや洋ナシのラ・フランスなどに代表されるように、山形県には品質の高いブランドフルーツが数多い。香りと味が豊かで人気急上昇のだだちゃ豆や米沢牛など、果物以外でも評判の高い農産品も豊富にある。2010年にデビューしたブランド米「つや姫」もある。
冬の風物詩となっている「日本一の芋煮会」には毎年10万人以上が集まり、河北町のご当地グルメである「冷たい肉そば」の人気も高まっている。緑色の三角形の山をデザインした、逆立ちの大技があるご当地キャラクター「ぺロリン」も人気上昇中で、14年には山形空港の愛称が「おいしい山形空港」となった。このように山形県は、「食」を前面に出したブランド戦略を展開している。
この戦略に対する効果は確実に表れている。震災後の12年に東北全体のイメージが上昇した反動で、13年に魅力度が一時的に低下したが、14年には上昇に転じ、今年は魅力度の順位が調査以来最高となる22位となった。
イメージ項目では「農林水産業が盛んな地域」としての評価が初めて全国1位になったほか、「自然が豊か」は4位、「食材が豊富」が6位といずれも高い評価を得ている。
食のイメージだけではなく、観光意欲度に関しても14年の36位から15年には25位へと大幅に上昇した。「旅やグルメ番組」で接触したという人の割合が、14年の16%から22%へと大きく上昇したほか「旅やグルメ雑誌、ガイドブック」「旅行・観光サイト」による接触率も上昇していることから、食と旅行が組み合わさった魅力が伝わったものと考えられる。特に、東日本の居住者からの情報接触度および観光意欲度が上昇している。
◆山形県の観光は男性上位?
山形県のブランド力を分析すると、2つの特徴が浮かび上がる。その一つは男性からの評価が女性より高いことだ。一般的には、女性のほうが旅行には敏感なため、観光意欲度も女性の方が高い県が多い。しかし、山形県の場合は男性の方が高いという結果になっている。
例えば観光に「ぜひ行ってみたい」との回答は、女性だと10%に対し、男性では13%と3ポイントも高い。観光意欲度の全国順位で比較すると、女性は31位なのに対して男性では21位だ。
実際に過去5年間に観光に訪れた経験のある人の割合(観光訪問率)でみてみると、女性が10%に対し、男性は12%。観光以外の目的も含めた訪問率は、女性の14%に対して、男性は22%と、こちらはビジネスでのニーズもあるためにさらに高くなっている。
これは観光の指標だけではなく、認知度、魅力度についても、いずれも男性からの評価の方が高い。つまり、山形県は男性からの評価が高いということになる。
ただし、視点を変えれば、今後、山形県のブランド力を高めていくには、女性から魅力的だと思われるような地域資源の発掘と、情報発信をさらに高めていく必要があるということになる。
◆県民による食の評価が急低下!
もうひとつの特徴は、山形県民による食への評価が、それほど高くないことだ。例えば県民が「食材が豊富」と評価した割合は37%で、全国順位では14位だ。前出のように一般消費者による食材への評価が6位であるのと比べると順位は低い。
しかも13年にはそれぞれ2位だったことから、この2年で急低下したことになる。同様に「食事がおいしい」は13年が63%(5位)だったのが15年にはが36%(16位)へと急低下している。
山形県の食材や食の魅力そのものが低下しているわけではないとすれば、県民自らが食の魅力を見失っているのかもしれない。「おいしい山形」を標榜するのであれば、山形県民が県内の食に対して評価を高めることが必要だろう。ただし、県民の厳しい視点では、食の資質が低下しつつあるということかもしれない。これが事実だとすれば、そのうち山形県の食に対する評価は低下してしまうかもしれないから、大問題だ。
なぜ、県民の評価が低下しているのか、その原因を徹底的に解明し、その課題を明らかにし、食の質やコンセプトなどを見直す必要があるだろう。山形県の食が豊かであることを県民が再発見し、その魅力を県民自らが自信をもって「語り部」となって伝えることができれば、地方創生の道は決して険しくはないだろう。
◆山形県の主要項目 (かっこ内は昨年の順位。△は上昇した項目)
- 認知度 35位 (44) △
- 魅力度 22位 (28) △
- 情報接触度 26位 (26)
- 居住意欲度 34位 (44) △
- 観光意欲度 25位 (36) △
- 産品購入意欲 14位
- 食品購入意欲度 7位 (12) △
◆山形県の主要なイメージ
- 農林水産業が盛ん 1位 ( 5) △
- 自然が豊か 4位 ( 6) △
- 食材が豊富 6位 ( 5)
- 伝統芸能、祭り 9位 (11) △
- 伝統技術 11位 (13) △
- 食事がおいしい 16位 (16)
- おもてなしがよい 2位 ( 4) △
地域ブランド調査の結果は http://news.tiiki.jp/survey2015 のページに掲載)
執筆・文責:田中章雄 (ブランド総合研究所社長)
(※この記事は、週刊ダイヤモンド2015年11月21日号に掲載したの記事を、筆者が加筆・修正したものです週刊ダイヤモンドの「勝手にケンミン創生計画」はコチラをご覧ください)