地方が外国人観光客を受け入れるには二次交通の対応が急務だ。鳥取市はその名も「1000円タクシー」といって、外国人旅行者限定で3時間1000円でタクシーを乗り放題にできるサービスを打ち出している。
訪日外国人の増加は当初予測よりもはるかに順調であり、「2000万人」の大台突破は2020年を待たずして実現される見込みである。これに呼応するように、日本各地が外国人誘客に本腰を入れ始めている。
ところが、いくら外国人観光客に向けてアピールしても、実際の受け入れ体制が整っていなければ意味がない。最大の壁は「二次交通」だといわれる。東京、大阪、京都といった大都市ならいざ知らず、地方都市レベルになると、最寄りの駅や空港から観光地を結ぶ「二次交通」が脆弱であることが多い。
地元の人々はすっかりクルマ社会であるので不便を感じないが、外国人観光客からするとこの不便は恐ろしく大きい。「爆買い」のイメージが先行するが、外国人観光客の多くは倹約家であり、たいていの場合できるだけ交通費を節約しようと心がける。
この「二次交通」の壁に真っ向から立ち向かっているのが鳥取市だ。
鳥取市が外国人観光客を意識し始めたのはこの数年だ。山陰海岸ジオパークの世界ジオパークネットワーク加盟(2010年)や、韓国ドラマ「アテナ」の県内ロケを受けての放送開始(2011年)など、外国人観光客を呼び込もうとする機運が高まりを見せていた。
しかし、鳥取砂丘、城下町、なし狩り、温泉、賀露港の水産市場など、見るべき観光スポットが点在しているため、車なしでは周遊できない。また、乗合バスを利用するというにも無理がある。
そこで鳥取市は妙案を考えた。通常3時間で15,000円かかるタクシー代を、タクシー会社と交渉して法定下限の9,000円にまで引き下げてもらい、さらに鳥取県と鳥取市が4000円ずつ負担することによって、利用者は1,000円ですむという制度を作ったのだ。これこそが、外国人限定の「1,000円タクシー」である(※H27年4月から、タクシー1台につき1,000円から、1人につき1,000円に改定)。
並行して外国人サポートセンターを設置し、「観光マイスター」の制度を整えた。観光マイスターは、座学、研修、筆記試験、実地試験をパスせねばならず、観光スポットやお土産店などの細かい情報も求められる。観光マイスターに合格しなければ、1,000円タクシーのドライバーになることはできない。
もちろんこの制度を維持するには、財源の手当が必要だ。おそらく毎年少しずつ内容を変えていきながら進めていく必要があるだろう。しかし、新しいチャレンジに果敢に挑んだという点で、鳥取市の今後の動きに注目していきたい。
(執筆:金築俊輔 ブランド総合研究所 シニアコンサルタント)