農泊とは
農泊とは、農村漁村地域を訪れ、日本ならではの伝統的な生活体験や地元のひとたちと交流を楽しみ、多様な宿泊施設(ホテル、民家、旅館、グランピングなど)を利用し、お買い物や、魚釣りや農業体験など、地域の魅力を味わえる旅行(滞在)のこと。
農泊の現状と方針(中間とりまとめより)
農林水産省は、有識者等7名の委員から構成される「農泊推進のあり方検討会」を4回にわたって開催し、6月にこれまでの農泊に関する状況を「中間とりまとめ」として公表した。
この内容によると、農林水産省では高齢化が進む農山漁村の所得向上において重要な柱として「農泊」を位置づけている。「明日の日本を支える観光ビジョン」(2016年3月)では2020 年訪日外国人旅行者数 4,000 万人のうち、 地方部での外国人延べ宿泊者数を 7,000 万人泊等との目標を定め、これを実現するための施策として「滞在型農山漁村の確立・形成」を位置付け、伝統的な生活体験と非農家を含む農村地域の人々との交流を楽しむ「農泊」の推進を掲げた。
2017 年度からは農 山漁村振興交付金の交付対象事業として「農泊推進対策」を位置付け、農泊を実践する地域に対して、「農泊推進事業(ソフト事業)」、「施設整備事業(ハード事業)」、「広域ネットワーク推進事業」として、2019 年4月末までに計 428 地域を採択した。
2019 年 4 月末までに採択した農泊実践地域 428 地域を地域ブロック別に整理すると次のとおり。
・北海道 40 地域
・東北地方 67 地域
・関東地方 77 地域
・北陸地方 41 地域
・東海地方 30 地域
・近畿地方 42 地域
・中国四国地方 66 地域
・九州地方 55 地域
・沖縄 10 地域
合 計 428地域
全ての都道府県で採択実績があり、採択数が 10 地域を越えているのは、18 道府県と、農泊の取り組みは全国に広がっている。なお、都道府県別で採択数が多いのは、 北海道(40 地域)、新潟県、宮城県(17 地域)、長野県、静岡県、熊本県(14 地 域)など。
東京オリンピック・パラリンピック開催まで365日を切り、今後、重点的に実施すべき取組として、「農泊」らしい農家民宿や古民家、廃校等の遊休施設を有効活用するなどにより、500地域の創出を目指していくとしている。
また、2020年以降としては、地元の農林水産資源を有効に活用し、利用者がイメージする「農泊」にあった農業体験、自然体験や文化体験、さらに食事メニューの開発など、一層強化していくとしている。
関連ページ 農泊推進のあり方検討会
地方の観光消費に向けて
先日、東京五輪の関連委員会が4万6千室の関係者の宿泊を抑えた結果、日本人までも開催周辺のホテルは予約ができないといった状況が各種メディアで取り上げられた。開会式が行われる東京都新国立競技場では、約6万人が集まることが予想され、宿泊宿がないことが課題として浮き彫りになっている。
農泊推進のあり方検討会の中間まとめによると、2018 年に訪日外国人旅行者数は対前年度 8.7%増の 3,119 万人に達し、地方部での外国人延べ宿泊者数は、2017 年に 3,266 万人泊(外国人延べ宿泊 者数全体の 40.9%)となり、2015 年から3年連続で地方部の伸びが三大都市圏の伸びを上回っているという。
また、平成 29 年の観光庁の調査によれば、訪日外国人旅行者が 次回に行いたい活動として、自然体験ツアー・農漁村体験が 15.4%となっており、農山漁村への関心が高いことがうかがえる。
米エアービーアンドビー社など海外のネットワーク経由による民泊の予約が急増しているが、大都市や主力観光地への宿泊が大半で、地域における集客は伸びていない。
農山漁村にある豊富な自然や農水産品、食文化などを武器に農山漁村への流入を図るためには、まずは、地域自体も地域の魅力に気づき、外国人や購買力や意思決定権をもつ大人も楽しめるような農泊受け入れ体制を急がなくてはならない。
農泊事業者の例
沖縄県今帰仁村 あいあいファーム
全国で訪日外国人の受け入れが進む中、沖縄県今帰仁村にあいあいファームという、小学校の廃校を利用したホテル、飲食、体験、直売所、農場、加工工場といった複合施設がある。農泊を進める中で、農家レストランのメニューを沖縄県食材にこだわり、琉球料理をメインにしたビュッフェランチへと改革し、県内外のお客でにぎわいを見せている。農泊の事業の開始に伴い言語の壁をクリアすべく、留学生といったネイティブスピーカーの雇用を開始した。同時に首都圏からの若者雇用に力を入れ、新たな視点と柔軟な体制を図り、香港、シンガポールなどからの団体客を獲得し、「琉球料理」を柱に沖縄の魅力を発信し続けている。
今帰仁村の里 あいあいファーム 公式サイト
宮城県登米市 伊豆沼農産
宮城県登米市の県北に位置する伊豆沼農産では、飲食、体験、直売所、直売場、加工工場を運営するも「泊」がなかった。伊豆沼農産では、市と協力し地域一体となって、グリーンツーリズム協議会、農家民宿、ユースホテルと連携を組む。また、外国人受け入れに捕らわれず独自手法を進めている。もともと子どもの食育から手作り体験を実施していたが、次のキーは、大人の再食教育として企業向け体験を柱に、PRを始動する。地域分散型として体験場所を地元農家の農場にうつし、農泊を通して大人の企業向けの体験で誘客に挑む。受け入れ農家民泊の整備により、登米市で開催される風土(food)マラソンのイベント民泊の受け皿へと地域連携を進める方針だ。
(有)伊豆沼農産 公式サイト