北陸新幹線の沿線県で観光意欲度が大幅にアップしたのが富山県だ。
観光意欲度とは「観光に行ってみたいと思うか」という設問の結果だけに、今後の観光への意欲を測る重要な指標である。富山県の観光意欲度ランキングの順位が2014年の28位から15年には16位と大幅に上昇した。
その他の県の変化を一覧表にしてみると以下になる(前年より上昇している場合は赤文字で示した)。
新潟県も29位から22位と上昇したが、富山県ほどの伸びではない。また石川県は8位で変わらず、長野県は7位から13位と下降しているだけに、富山県が北陸新幹線開通の観光意欲上昇の効果はもっとも高かったと言うことになる。
富山県内で新幹線駅のある市町村の観光意欲度については、黒部市は14年の62位から15年は31位へ、富山市は同じく134位から76位へ、高岡市は364位から328位へといずれも上昇している。
◆上昇の要因は食にあり
富山県の観光意欲度を引っ張り上げている最大の魅力は「食」だ。千㍍以上の深度がある富山湾には立山連峰からの冷たい雪解け水が流れ込み、深海の冷水がかき混ぜられるように上昇することで、多くの特徴的な魚が集まり、好漁場となる。
例えばホタルイカ、シロエビは富山湾の特産品として名高く、冬のブリは「氷見ブリ」と呼ばれる高級ブランド魚だ。また、コシヒカリなどの米や、入善のジャンボ西瓜などの農産品も評価が高い。 「食材が豊富」のイメージは全国7位、「食事がおいしい」は8位と高く、いずれも前年の10位、11位より順位が上昇している。
北陸新幹線の開通に当たって、富山県は豊富な食資源を武器に、観光集客を図った結果と言えるだろう。例えば関東居住者が富山県を「食事がおいしい」と評価した人の割合は、15年は22%と前年の15%から7ポイントも上昇した。これは中部居住者の9%、近畿居住者の10%よりはるかに高い。つまり、この1年間で関東居住者による富山県の「食」への評価が高まっているということだ。
◆住みやすさはトップだが・・・
富山県の魅力はなにも食や観光だけではない。持ち家率は全国一位で、世帯収入は全国最高水準。貯蓄率も高い。こうしたことから、「住みやすさ」のランキングでは常に全国上位レベルだ。
地域ブランド調査による居住意欲度も2015年の順位は20位と、前年の26位より大幅にアップした。 しかし、住みやすさの指標と比較すると、決して高い評価とはいえない。
新幹線開通により、富山駅は東京駅と最短2時間8分で結ばれるようになった。金沢駅とはわずか20分だ。道路整備率も全国で最高水準にある。また、富山市内にはライトレールも整備されている。ところが関東居住者が富山県を「交通の便が良い」と評価しているのはわずか1%で、前年と変化が見られない。
これは観光客がかならずしも「便利さ」を評価していないからだ。典型なのは、秘境の地で死者が多数出る難工事の末に完成した黒部ダムや、高さ20メートルにもなる雪の壁「雪の大谷」のある立山黒部アルペンルート。ケーブルカーやトロッコ電車、トロリーバスなどを使い一日かかりでの旅に、年間100万人が利用する人気観光ルートとなっており、外国人観光客も急増している。
「住みやすさ」や「便利さ」は県民など生活者にとっては重要かもしれないが、観光客にとっては「非日常」が何より魅力的と感じることが少なくない。
今回の調査では富山県は観光意欲度が急上昇した一方で、魅力度は逆に低下してしまっている。これは、北陸新幹線による便利さが前面にでてしまい、逆に富山独自の魅力が十分に伝わらなくなってしまっているからかもしれない。 北陸新幹線の沿線県においても、必ずしも上昇していないのは、このような理由だからではないか。・・・
今一度、富山県にある豊富でかつ特有な魅力を、じっくり、ゆっくりと多くの人に伝えてもらうことに期待したい。
◆富山県の主要項目 (カッコ内は前年度の順位。△は上昇した項目)
- 認知度 29位(40)△
- 魅力度 32位(23)
- 情報接触度 16位(36)△
- 居住意欲度 20位(26)△
- 観光意欲度 16位(28)△
- 産品購入意欲度 16位
- 愛着度 32位(34)
◆富山県の主要なイメージ
- 街並みや歴史建造物 16位(36)△
- 自然が豊か 21位(12)
- 食材が豊富 7位(10)△
- 食事がおいしい 8位(11)△
- 伝統技術 8位( 9)△
- 美術館や博物館 15位(24)△
地域ブランド調査の結果は http://news.tiiki.jp/survey2015 のページに掲載)
執筆・文責:田中章雄 (ブランド総合研究所社長)
(※この記事は、週刊ダイヤモンド2015年12月5日号に掲載したの記事を、筆者が加筆・修正したものです週刊ダイヤモンドの「勝手にケンミン創生計画」はコチラをご覧ください)