「縁結びの神様」として知られる大国主大神をまつる出雲大社。2013年5月に行われた「平成の大遷宮」は、1744年に造営された本殿の改修にともなる60年ぶりの遷宮で、5月には大祭礼、10月には神迎祭、11月には神在祭などが催されたほか、特別参拝なども行われた。
出雲大社への13年の参拝者は804万人で、12年の348万人から2倍以上の増加となったほか、周辺の観光地にも大きな波及効果があった。例えば松江市の松江城への13年の来場者は前年比46%増の40万人、松江しんじ湖温泉は82%増の33万人、玉造温泉は同28%増の75万人、出雲市の島根ワイナリーは37%増の116万人、安来市の足立美術館は50%増の66万人と、いずれも大幅に増えた。
こうした理由から、13年の島根県の観光客数は延べ3682万人となり、12年の2919万人から26%増となった(いずれも島根県観光動態調査より)。
一方、遷宮後の14年には出雲大社の参拝客は665万人と13年より17%減となったほか、上記の観光施設の来場者はいずれも数%の減少となった。島根県全体では14年の入込観光客数は3320万人で、前年より10%減となっている。
地域ブランド調査の結果でも15年の魅力度は前年より大きく低下している。また、魅力度以外の評価項目や、イメージ項目が前年と比べると軒並み低下している。このように、島根県の観光は遷宮後の反動という大きな局面に面しており、遷宮後の巻き返しが緊急課題となっている。
◆若い女性の人気が低下
ただし、遷宮後に観光客数が減少したといっても、遷宮前に戻ったわけではない。出雲大社の表参道「神門通り」の入口に12年に新たにオープンした「ご縁横丁」のほか、新たに物産展や飲食店などが続々と誕生し、活気を帯びている。「美肌の湯」として人気の玉造温泉では恋叶い橋や願い石・叶い石などに若い女性が夢中になっている。
地域ブランド調査の結果から、20代と60代の観光意欲を比較すると、島根県に「ぜひ行ってみたい」と答えた人は20代の方が多い。つまり、若い島根ファンは増えているということには間違いがない。
ところが20代で「機会があれば行ってみたい」と答えた人は60代と比べて大幅に少ない。しかも14年(33%)より半減以下になっている。これはブームに左右されやすい多くの若い女性の興味が薄らいでいるということだろう。
◆食の魅力も十分には伝わっていない?
女性に限らず、島根県の魅力を高めるのに必要なのは、出雲大社以外にも豊富にある地域資源の魅力を多くの人に伝えることだ。島根県は冬の松葉ガニや、紅ズワイガニ、宍道湖のシジミなどの海産物が豊富にある。日本の棚田百選に選ばれ、食味ランキングでも最高位の特Aに評価される「仁多米」や、松江藩主で茶人の松平治郷(雅号・不昧)に由来する松江の和菓子、出雲が発祥の地である「ぜんざい」など特徴のある産品や食がたくさんある。
しかし地域ブランド調査における島根県の「食事がおいしい」のイメージは全国38位と低い。豊富な食材や食文化の魅力が消費者には十分に伝わっているとは言えないという事実が垣間見れる。
いま、島根県は「島根県には本物がある」とのキャッチフレーズで展開しているが、島根県の豊富な海産物や農産品などを生かした商品化を進めることで、食品産業の創出や、飲食業などの活性化を高めることも不可欠だろう。
◆石見地方の活性化を
もうひとつの課題は県西部にあたる石見地方の活性化だ。世界遺産に登録されている石見銀山や、演劇性が強く、市民の生活に根付く石見神楽、小京都と称される津和野町の町並みなど、県東部の出雲や松江とは違った魅力がある。
しかし、残念ながら県西部にある市町村の魅力度は決して高くはない。つまり、県西部の魅力が消費者に十分には伝わっていないということだ。
もし、島根県が県西部にある地域資源や、市町村をうまく融合させて打ち出すことができれば、出雲や松江のイメージとは違った魅力として消費者に伝えることができるだろう。そうすることで、島根県がもっと魅力的と感じる人が増えるのは間違いないだろう。
◆島根県の主要項目 (かっこ内は昨年の順位。△は上昇した項目)
- 認知度 47位 (38)
- 魅力度 40位 (26)
- 情報接触度 42位 (34)
- 居住意欲度 47位 (33)
- 観光意欲度 35位 (27)
- 産品購入意欲度 45位
- 愛着度 46位 (28)
◆島根県の主要なイメージ
- おもてなしがよい 8位 (23)
- 街並みや歴史建造物 18位 (12)
- 自然が豊か 20位 (16)
- 食材が豊富 29位 (31) △
- 伝統芸能、祭り 35位 (21)
- 食事がおいしい 38位 (32)
- 伝統技術 39位 (28)
地域ブランド調査の結果は http://news.tiiki.jp/survey2015 のページに掲載)
執筆・文責:田中章雄 (ブランド総合研究所社長)
(※この記事は、週刊ダイヤモンド2015年11月28日号に掲載したの記事を、筆者が加筆・修正したものです週刊ダイヤモンドの「勝手にケンミン創生計画」はコチラをご覧ください)