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体験農園に年50万人~伊賀の里モクモク手づくりファーム (三重県伊賀市)

体験農園に年50万人~伊賀の里モクモク手づくりファーム (三重県伊賀市)

三重県旧阿山町で農業を営んでいた養豚農家や野菜農家が始めた手作りのハム・ウインナー作り。体験教室がきっかけとなり、本格的な体験農園「モクモク手づくりファーム」としてオープン。加工食品の製造から、通信販売、レストランの出店などでも人気を集め、年間50万人もが集まるまでに成長した。

三重県旧阿山町で農業を営んでいた養豚農家や野菜農家が始めた手作りのハム・ウインナー作り。体験教室がきっかけとなり、本格的な体験農園「モクモク手づくりファーム」としてオープン。加工食品の製造から、通信販売、レストランの出店などでも人気を集め、年間50万人もが集まるまでに成長した。

伊賀の里モクモク手づくりファームがある旧阿山町(現伊賀市)は、三重県の北西部に位置し、滋賀県との県境にあり、大阪、名古屋から100km圏内で、中部圏と近畿圏の中間地点の穏やかな山に囲まれた人口約8000人の町。 農業は稲作と畜産が中心で、伊賀米、伊賀牛、伊賀豚などの評価が高い。

[caption id="attachment_2165" align="alignnone" width="300" caption="モクモク手づくりファーム"][/caption]

伊賀豚は飼料に木酢酸を混ぜているのが特徴。木酢酸は、豚の体内でアルカリ性になり、脂質をおいしく変える役割がある。豚肉特有のニオイが少なく、キメ細かく柔らかい肉になるのだ。

その養豚農家が伊賀豚の良さを生かした加工品作りをすることを目的として、1987年に「ハム工房モクモク」を設立した。ログハウス造りの「手づくりハム工房」で伊賀豚を使った手作りのハムやソーセージを作って売り出したが、地元住民からの評判はすこぶる良いものの、いかんせん旧阿山町の人口は8000人と少ないうえ、工房が山の中のわかりにくい場所にあったために、なかなか売上が増えず、経営は悪化の一途をたどっていた。

◆ただ売るのではなく、体験してファンに

89年に工房の一角で「手づくりウィンナー教室」を始めた。これは親子で参加してもらってウインナーソーセージを作ってみるイベント。羊の腸に粘土のように練った肉を大きな注射器のようなもので詰めて、クルクルとひねると簡単にウインナーができあがる。



それをボイルして食べると、いままで食べたものとは全く違う自分だけのソーセージになり、歓声があがる。 違うのは味だけではなく、人工添加物を一切加えない安全・安心な作り方や、作っているときの楽しさなど。もちろん参加した親子(特に子供)は大喜びだった。こうして大成功を収めた教室が、大赤字だったモクモクが黒字に転じるシナリオの入り口となった。

教室を開催して間もない頃に、参加者から「ウインナーを食べきっちゃったので送ってほしい」という連絡があった。一度参加した人は、友人を連れて何度も来るようになった。つまり教室を通してモクモクのファンが増え、その会員組織ができてきたのだ。

会員の増加とともに商品の売上も増え続け、売上は安定してきた。そこで95年には、農業の体験を通じて生産者と消費者、地域住民の触れ合う体験型農場「モクモク手づくりファーム」がついに誕生した。精肉加工品以外にもチーズ学舎や地ビール工房など体感型の工場見学、農村料理の店やバーベキューレストラン、学習牧場、温泉、宿泊施設といった多様な施設で構成されている。訪れた子どもたちは体験を通して農業や食や自然などを学ぶ「食育」につながる。

こうして親子連れや小中学校などの生徒が大勢訪れるようになっていった。従業員や会員による手作りのイベントとして、年数回の県内外から数千人が参加する大規模なもののほかに、年間約50回もの小イベントも開催している。農業と農村および環境に根ざしたもので、楽しみながら農業に親しめるような工夫を凝らしている。



こうして開業当初(1995)に17万人だった来訪者数は、現在では50万人にも増えた。もちろんハムやウインナーだけでなく、通信販売は野菜、ビールなど商品点数が増えた。そして、それらを食材としたレストランを、名古屋の駅ビルなど各所にオープンするようになり、事業とファンはどんどん広がっていった。

◆経験価値がブランドを強くする

最近、日本各地でこのモクモクの成功を手本に、多くの体験農場や工房が作られるようになってきた。これは「イクスピアリアンス・マーケティング」と呼ばれる世界中から注目を集めている手法で、その商品の購入や消費の過程において、楽しく心に残る経験を提供することに主眼を置いたものだ。楽しく心に残った経験は、その顧客を熱烈なファンにさせ、最終的には非常に多くの価値を提供者側にもたらす。

かつてマーケティングは「顧客のニーズを充足させる商品を提供し、顧客の満足度や利益を最大化させることが重要である」という考えが主流だった。ところが、最近は、製造技術の向上やIT化などによって、消費者のニーズを満たせる商品が機械によって簡単に作れるようになってしまったため、商品の差別化が難しくなり、モノづくりの現場が日常生活から遠ざかってしまった。

しかし、モクモクでは、放し飼いにしている豚の背中をなで、自らの手でソーセージを作り、パンやチーズを作っているところを見ることができる。これは消費者にとっては非日常の世界であり、そこには驚きと発見をたくさん得ることができる。驚きと発見はニーズを超える“満足”を消費者に与え、他との差別化につながる。

◆顧客の満足が社員を魅了し、育てる

顧客の驚きや発見は、顧客の満足につながるだけではない。そこで働いているスタッフの満足をも高める効果がある。

モクモクには、いまたくさんの若い就職希望者が殺到している。スタッフ自らの作業や説明によって顧客は驚き、大いに喜ぶ。その姿を目の当たりにすることで、スタッフ自体がやりがいを感じ、満足するからだ。顧客の満足は他の顧客に伝染するが、同時にスタッフの満足度も高める効果がある。

その結果、モクモクのスタッフは生き生きとして働き、その姿がテレビや新聞、あるいは商品などを通じて多くの若者に伝わる。「自分もやりがいのある仕事をしたい」と考えている若者の心を惹きつけるのだ。



モクモクの従業員数は300人を超えた。そしてその平均年齢は20代と若い。「農産物を作るだけでは、成り立ってはいかない。加工・販売までを農業としてとらえることで、多くの若者たちが農業でめしを食っていける環境を整えること」(木村修代表)という考えに、学生などの多くの若者が共感したのだろう。

いま、日本中で農商工連携や農林水産業の6次産業化への取り組みが急増しているが、その成功へのヒントをモクモクから多く学ぶことができるだろう。

(文章:ブランド総合研究所 田中章雄)

参考:伊賀の里モクモク手づくりファーム

※この記事は「月刊商工会」の連載記事「注目!地域ブランド」の記事として、2011年9月号に掲載されたものです。

 

この記事のライター
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