山梨県甲府市で開催された第41回信玄公祭り。その会場で「よろいを身にまとったサムライの人数世界一」のギネス世界記録が誕生。多くのメディアに取り上げられた。今後、観光面での大きな効果が期待される。
武田信玄の命日である4月12日の前後に行う甲府市で最大規模の信玄公祭りが、今年は4月6日から8日の3日間にわたって開催された。
1947年に山梨県と甲府市の観光協会、甲府市商工会議所の共同主催で開始された桜祭りと、地元の甲府市相川地区の住民が行った騎馬行列に由来したもので、70年には信玄公を中心として、武田24将のそれぞれを隊将とする軍団が「挑まん、いざ川中島」として集結するシーンを再現する「甲州軍団出陣」として誕生した祭り。
41回目となる今年は、よろいを身にまとった“サムライ”の人数によるギネス世界記録への挑戦が併せて行われた。
信玄公の嫡男である武田太郎義信の隊に扮したのは山梨県議会議員団。県議会前に陣屋を設け、一般の市民・観客とふれあい、記念撮影をしながら、いざ本番に向けて気勢を高めた。
そのほかの軍団は山梨県各地の市町村、企業、青年会議所などのメンバーでそれぞれ構成された。その数は、騎馬30頭あまりと、武者約1500人。火縄銃や槍を抱えた参加者は、午後4時半からJR甲府駅前の平和通りに集結し始めた。
午後5時15分、信玄公の「出陣じゃ」の合図でほら貝が鳴り響き、甲府駅前から平和通り、城東通りを武田24将の各軍団が進軍。「風」「林」「火」「山」の4つののぼりを立てて、約2時間をかけて市中心部を練り歩いた。
騎馬隊や槍、弓を身につけたサムライのほか、信玄公を取り巻く女性たちを中心とする華麗な武田時代隊などが続いた後、最後に俳優の沢村一樹氏が扮する武田信玄公本陣が勇壮華麗に出陣した。
■いざ世界一へ!
日本最大規模のよろい武者の行列。それを世界一の記録として公式認定されるためには、世界に通じるルール(ガイドライン)が必要になる。
幸い、『ラストサムライ』や『夢』などよろい姿のサムライが登場する映画は世界中でも人気が高い。重要なのは「サムライ」として認められる条件だ。ギネス・ワールド・レコーズの日本側の窓口である地域活性化委員会のスタッフは、ロンドンの認定員に何度も日本の伝統を説明し、挑戦するためのルールとその修正に追われた。
要した時間は約3ヵ月。最終的にサムライとして認められるためには、
- 着物を着用、または着物の上によろいを着用
- よろい姿の場合は胴、くさずり、すねあて、手甲を着用
- 頭にかぶと、額当て、えぼし、竹製の編笠のうち1つを着用
- 刀はさやに入れ、左の腰に差している
- 草鞋など、日本の伝統の履物をはいている
の5つを満たしていることが必要となった。この5つの条件を満たしていない場合や、腕時計や携帯電話などサムライの時代にそぐわない現代的なものを身につけていた場合は失格となり、サムライの人数としてカウントされない。
そしてついに挑戦当日。挑戦の2時間前から、甲府駅前の挑戦エリアや証拠映像の撮影ポイントについて入念な最終チェックを実施。祭りの実行委員会メンバーは、入場してくるサムライたちの間を走り回り、声を枯らして隊の整列に努めた。
イベントの進行上、計測時間はわずか15分しかない。ギネス・ワールド・レコーズの2名の認定員が、1000人以上に及ぶサムライたちの衣装を1人ずつ確認しながらカウントを始めた。
もちろん、姫君や巫女などは対象にならないが、計測中にロープを張った挑戦エリアから出たサムライも失格。挑戦エリアには挑戦者(サムライ)以外の立ち入りは認められない。失格者の割合がエリア内にいる挑戦者数の5%を超えると、たとえ人数が多くても挑戦自体が失格となってしまうからだ。
祭りの実行委員など、関係者は挑戦エリアの外から固唾を呑んで見守るしかなかった。 その計測が終了した後、認定員は集計作業に取りかかった。
自分たちのカウントした人数だけでなく、証拠ビデオを見ながらガイドラインの違反者がいないかどうか、険しい表情を浮かべながら再度のチェックを行い、最終的な認定の可否を判断するためだ。
一方、サムライたちはいよいよ出陣。駅前広場から大通りを下り、帰陣式の行われる舞鶴城公園まで行列は続いた。
■ついに記録達成!
集計作業に要した時間は約1時間。「結果が出ました」という認定員の呼びかけで、実行委員たちが緊張の面持ちで集まってきた。
「ビデオチェックの結果、ガイドライン違反者が数名見つかり、彼らは失格となりました。しかし、挑戦自体はギネス世界記録としての規定をクリアしていましたので、有効です。集計の結果、公式認定となるサムライの人数は1061名で、これをギネス世界記録として認定します!」
実行委員たちは一様に安堵の表情を浮かべ、事務所内は拍手で沸き返った。
認定証が授与されたのは帰陣式。「お館様、申しあげたき儀がございます」という軍奉行の言葉で、認定員がステージ上へ導かれた。
「今回の挑戦をギネス世界記録に認定します!」
認定員の口から発表され、認定証が信玄公に手渡されると、信玄公からはガッツポーズが飛び出し、サムライも観客も歓喜の声をあげた。山梨の財産がまた1つ増えた瞬間だった。
実行委員会構成団体のやまなし観光推進機構では今回の認定を受け、さっそく具体的な誘客促進策の検討に入るという。また、海外の旅行会社との商談会では来年の信玄公祭りのセールスポイントとしてギネス世界記録認定を前面に押し出し、売り込む計画だという。この挑戦がこの地域の発展につながる「勝ち戦」となるために、いま大きく前進し始めた。
(文章:ブランド総合研究所 田中章雄)
参考ページ:
※この記事は「月刊商工会」の連載記事「注目!地域ブランド」の記事として、2012年5月号に掲載されたものです
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