埼玉県久喜市に、10~20代の若者が全国から続々と訪れる不思議な神社がある。その名は「鷲宮神社」。いま、鷲宮町商工会が音頭をとって、驚くようなまちおこしのプロジェクトが進んでいる。
「鷲宮(わしのみや)神社」は、関東地方で最古の大社とされている由緒ある神社で、国の重要無形民族文化財である神楽が奉納されることでも知られている。東武伊勢崎線の鷲宮駅に隣接した約1万坪もある木立に囲まれた広い境内は、森厳な雰囲気をかもし出している。
この神社に若い人が集まり始めたのは2007年5月頃のこと。神社に参拝に来る若い人たちが増えてきた
[caption id="attachment_1976" align="alignright" width="224" caption="鷲宮神社"][/caption]
ことを、最初は、誰もあまり気に留めなかった。しかし、その数はどんどん増える一方。
鷲宮町商工会の若手が調べてみたところ、どうものこの神社が「らき☆すた」というアニメの舞台になっていて、そのファンが「聖地巡礼」と称して訪れるようになっていたということらしい。
「らき☆すた」は、アニメやゲームが大好きな小柄な女子高生、泉こなたと、容姿端麗で博識な高良みゆき、そして、柊つかさ&かがみ姉妹の4人を中心とした4コママンガ。女子高生の普通の生活のたわいもない会話が題材となっている。
アニメ雑誌に連載されていたこのマンガが、2007年4月から半年間、アニメ版としてテレビで放映されたことで人気が沸騰した。さらにそのアニメ放映が終了した後に、ファンの間ではそのアニメに関係しているものを探そうという機運が高まってきた。そこで着目されたのが鷲宮神社。
◆聖地巡礼饅頭がバカ売れ!
このマンガが登場する柊姉妹は、父親が宮司を務める「鷲宮神社」に住むという設定になっているのだが、そのモデルになっているのが、どうも鷲宮神社らしいとファンの間で話題になった。もちろん鷹と鷲という文字の違いだけではなく、このマンガの作者である美水かがみさんが埼玉県在住であったからだ。
そこで、このマンガのファンが「聖地巡礼」と称して続々と詰めかけ始めたのだ。 ものは試しとばかりに、商工会が中心になって地元の菓子屋に6個入りの「聖地巡礼饅頭」を発注し、駅前の商店街で売り出してみたところ、瞬く間に売り切れてしまったのだ。名前は「聖地巡礼饅頭」だが、中身はなんの変哲もないただの饅頭。
「これは面白い!」 うまくすれば、地元の特産品の開発につなげ、商店街の活性化に結びつけることはできないだろうか、と考えた商工会は、出版社である角川書店に話を持ちかけた。すると出版社は乗り気に。ここから地域と出版社とが連携した画期的な商品開発が始まったのだ。
◆公式参拝や住民票まで登場
商工会が中心となり、らき☆すたオリジナルグッズの政策を始めた。ミニ絵馬のストラップやTシャツ、クッキーなど人気商品が続々。さらにやきそばは「らき☆そば」という名前で売り出され、「らっきー☆団子」「柊姉妹煎餅」「柊そ~せ~じ」など鷲宮は「らき☆すた」一色に。
さらには、ヒロインの「普段はツンツンしているが、デレる時はヘタレながらデレる」という性格から味を開発(?)した「ツンダレソース」が商品化されて、これまで人気となるというフィーバーぶり。
こうして開発された商品は地元商店街や鷲宮町商工会青年部が運営する「大酉茶屋わしのみや」で販売している。さらに商店街の歳末セールで『らき☆すた』のキャラクターをあしらったスクラッチカードを用いたり、駅には鷲宮神社の『らき☆すた』神輿を展示したりするなど、イベントも目白押し。その結果、商店街には連日多くの巡礼者が訪れることになり、かつての賑わいを取り戻している。まさに商工会、商店街、神社、駅など町をあげて地域振興に取り組んでいるのだ。
さらにファンや住民も参加してのイベントもスタートしている。2007年には作者や出演俳優がそろって鷲宮神社に「公式参拝」を行い、大勢のファンが押し寄せた。旧鷲宮町(今年3月に久喜市と合併)は2008年4月1日付で柊姉妹を含む柊一家に特別住民票を交付。4月6日には当時の鷲宮町の本多健治町長が出席して、特別住民票交付式が大々的に行われた。
鷲宮神社の2010年の正月の初詣客数は、三が日でなんと45万人。これは埼玉県内で氷川神社(さいたま市)に次ぐ2位。『らき☆すた』人気になる前は9万人だったというから、恐るべき効果といえる。
◆3市が連携し、効果を拡大
作者の出身地であり、ヒロインの住んでいる町とされる埼玉県幸手(さって)市と、ヒロインが通う高校がある同県春日部市でも『らき☆すた』のキャラクターを活用したイベントやオリジナルグッズの製作・販売を始めている。
[caption id="attachment_1978" align="alignright" width="224" caption="らき☆すたの絵馬"][/caption]
2009年3月には、作者の美水家が転居したのに伴って空き家となった旧家を、ギャラリー兼交流施設「きまぐれスタジオ 美水かがみギャラリー幸手」として開館。2010年1月1日付で泉一家をギャラリーの所在地に住民登録し、同年1月3日に特別住民票の交付を行った。
ややもすると本家争いが勃発しそうではあるが、この3市は違う。それぞれの商工会・商工会議所などが綿密に相互連携し、版権データの共有やイベント開催、グッズ販売で協力し合っている。また、桐細工の産地である春日部市では鷲宮・幸手双方にグッズを提供している。1ヵ所より2ヵ所、3ヵ所と回りたいのがファン心理。4人のヒロインたちが仲が良いのと同じように、3つの市町が仲良く連携している方が安心だし、集客面での相乗効果は確実に見込める。
その結果、3市には『らき☆すた』によって年間数億円(弊社試算)もの経済効果がもたらされている。
(文章:ブランド総合研究所 田中章雄)
参考:久喜市商工会鷲宮支所(旧鷲宮商工会)
※この記事は「月刊商工会」の連載記事「注目!地域ブランド」の記事として、2010年10月号に掲載されたものです。
アニメと神社でまちおこし (埼玉県久喜市)
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