日本各地で行われる花火大会。打上げ発数の多い諏訪湖祭湖上花火大会(長野県)、全国長良川中日花火大会(岐阜県)、隅田川花火大会(東京都)などは全国的にも有名だが、各地の花火大会それぞれが、独自の魅力を打ち出そうと工夫を重ねている。
花火と言えば夏の風物詩というイメージが強いものの、これからの季節にも、各地で大会が予定されている。ここでは、その地域ならではの特色を打ち出した花火大会を紹介する。
■秩父夜祭り
秩父市で毎年12月に行われる「秩父夜祭り」。京都祇園祭、飛騨高山祭と共に、日本三大曳山祭のひとつに数えられている(注:祇園祭、高山祭、滋賀県の長浜曳山祭を数える説もある)。江戸時代の寛文年間(1661~72)には存在していたという記録があり、300年余りの歴史をもつ、秩父神社の例大祭だ。
毎年12月3日の大祭では朝から山車の曳きまわしが行われるが、御神幸行列や各町会の山車が秩父神社を出発する午後7時過ぎから、お旅所に到着する午後10時頃までが祭りのピークとなる。
この時間に併せて行われるのが花火大会だ。全国の精鋭花火師26名による花火の競演「日本芸術花火大会」に続き、地元の花火店をクローズアップした「煙火主催町競技花火大会」が実施されるのが秩父夜祭の特徴。秩父市や皆野町、東秩父村の花火店が腕を競う場となっている。
秩父地方では、江戸時代初期より農民自らが火薬の原料となる硝石を製造していた。幕末の動乱期に鉄砲用の火薬需要が高まった際には、江戸や宇都宮、水戸へと移送する火薬の一大製造拠点となり、明治期に秩父地方各地で花火大会が盛んに開催されるようになると、本格的な花火製造がスタートしたと言われている。
■和紙の産地として
ところで、打上げ花火は、火薬の調合、「星」の成形、火薬とともに組み立て、花火玉の表面に紙を厚く貼る仕上げ工程を経て完成される。仕上げ工程で使用する紙は現在はクラフト紙が用いられるが、昔は和紙を使用していた。
この地方の東秩父村と小川町は、ユネスコ無形文化遺産に登録された「細川紙」の産地である。東秩父村のある花火企業によれば、現在もクラフト紙とともに、ポイントとなる境目には和紙を使用することがあると言う。
火薬の原料となる硝石と、花火玉の組み立てに欠かすことのできない和紙の両方が揃ったことが、この地に花火製造が定着した一因だろう。「煙火主催町競技花火大会」として、地元の花火企業に焦点をあてて作品を発表できる場を設けることで、地元の花火産業が支えられているのではないだろうか。