外国人観光客を受け入れるに当たってのボトルネックの一つが外国語だ。外国語で対応できれば外国客の満足度が上がり、日本に対してもっと愛着心を持ってくるだろう。とはいえ、ペラペラに話せるようになる必要はないのだ。片言でも構わないから、思い切って話しかけられることが重要だ。
品川区では、「英語少し通じます商店街」プロジェクトを実施している。このプロジェクトでは、英会話教室が商店街のお店で行われるのだ。2人の外国人講師(英語しか話せない外国人買物客という設定の外国人英会話講師と、サポート役の日本人英会話講師のペア)が店舗を回り、商店主が英語での接客にチャレンジする、という現場実習型になっている(写真参照)。
また、興味深いことに、流暢な英会話の習得を目指していない、ということを自覚的にプロジェクトの目標にしているのだ。下町的情緒あふれる昭和的雰囲気たっぷりの商店街で、おじちゃんやおばちゃんがちょこっと英語を話せるようになることが目標なのだ。
このスタイルの英会話教室が生み出す効果は2つあると思われる。ひとつは、現場実習型なので、座学では出来ない実践的研修が可能だということだ。お店で商品を手にとって「What is this for?」と聞かれる方が、座学のロールプレイで聞かれるよりも臨場感が生まれるのは確実だ。
もう一つは、外国人観光客への「サプライズ」効果ではないだろうか。私自身、外国に旅行へ行った時、立ち寄った田舎の定食屋などで、店主のおじちゃんがほんの一言日本語で話しかけてきてくれて、驚くと同時に嬉しかった経験がある。たった一言ではあるけれど、その国への愛着心がグッと深まる大きな一言だったのだ。
垢抜けたペラペラの英語ではなく、心に染み入る「少し」の英語。品川区の商店街の暖かさが、外国人観光客の旅の疲れをホッコリと癒してくれるはずだ。そんなそれぞれのお店の暖かいおもてなしの気持ちが、商店街全体の外国人の受け入れ雰囲気作りにつながることを期待したい。
文責:網野 善久(株式会社ブランド総合研究所 アナリスト)