「やったー! レバノン越えだ」「ばんざーい!」。
石垣市に建設中(当時。2013年3月に開港)の新空港に、中山市長を中心に大きな歓声が起こった。
1710人が協力して石垣牛の串焼きバーベキューに挑戦し、その長さ107.6mで「世界一長い肉の串焼き」としてギネス世界記録に認定された瞬間だった。世界記録達成の瞬間を見届けようと、1万5000人がバーベキュー大会に来場し、島で最大規模のイベントとなった。
沖縄県八重山諸島の中心島である石垣島。東京までの距離は約2000キロ、沖縄本島(那覇市)より南西方向に約400キロに位置している。亜熱帯海洋性気候で年平均気温は23.8℃と、1年を通じて半袖で過ごすことができる。自然に恵まれ、沖縄県最高峰の於茂登岳(525.8m)をはじめとする山々や河川を有しているほか、周囲を美しい海とサンゴ礁に囲まれたリゾート地として人気が高く、年間70万人以上の観光客が訪れている。
総人口は4万8,757人(平成23年10月現在)で、全国にも珍しい今も人口が増え続けている島でもある。 そんな国内有数の観光地である石垣島に、25年に新空港の開業を目指して急ピッチで工事が進められている。現空港より長い滑走路をもつ新空港が開業すれば、国内外からより多くの観光客を受け入れることができる。
その新空港のPRと、それをきっかけにした石垣島を中心とした八重山諸島経済の活性化、特に島内で2万4000頭が飼育されている石垣牛のイメージアップと消費拡大に向けたイベントの開催を石垣市が検討していた。インパクトがあり、国内外に話題性がある取組みとして目をつけたのが「ギネス世界記録(TM)」への挑戦だ。
「ギネス世界記録に挑戦すれば全国ニュースになる。石垣牛が全国区になれば、新食肉センターや新空港ができたときにどんどん出荷できるようになる。イベントが定着すれば観光客を呼ぶことができる。新空港の開港とその先を見据えたイベントだ」と発案者の中山義隆市長は意気込んだ。
■挑戦の3日前に100mに変更!
挑戦するのは「世界一長い肉の串焼き」で、その時点での世界記録は米国テキサス州での8.74m。そこで、新空港の開業予定日である25年3月7日にちなんで、25.37mの串焼きを作って世界記録を目指すことにした。
[caption id="attachment_2303" align="alignleft" width="300" caption="用意された角切りの石垣牛"][/caption]
ドラム缶を利用した長い焼き台を作り、網を並べて炭で火を起こす。並行するようにして置いた長テーブルの上に、4mのステンレス製のワイヤを溶接して28mに伸ばした長い串を置く。そこに直径5cm角のサイコロ状の肉を端から刺していき、全部を刺し終えたところで焼き台の上に移動。何度か回転させてまんべんなく火を通した後で、焼き台から再びテーブルに戻して焼きは終わる。
数ヶ月前から何度もテストやリハーサルを繰り返し、このような手順を決めた。バーベキューに挑戦するのは500人(参加費用1500円)。単に世界一への挑戦に終わらせないために、参加料を1人1000円にして多くの人に石垣牛を味わってもらい、楽しんでもらうために様々な企画を用意した。
そして、ついに「最南端、史上最大の栄養会 石垣島が育んだ最高級の石垣牛を1万人で食べつくす!」をキャッチフレーズとした大バーベキュー大会の目玉イベントとして、11月27日に新石垣空港建設用地で開催する準備が進められていた。
ところが、イベントの3日前。突然の信じられない情報に、市長をはじめとする関係者が愕然することになった。それは、レバノンで新たに97.5mという「世界一長い肉の串焼き」がギネス世界記録に認定されたというニュースだった。
25.37mから97.5m超へ。なんと目指すべき長さは、約4倍という途方もない記録になってしまったのだ。この記録に挑戦するには、肉、焼き台、網、串、炭、挑戦者、手順・・・。すべてを最初から設計し直さなくてはならない。
市長をはじめ、関係者が集まり、夜中まで検討を重ねた結果、実行委員会で出した結論は「打倒レバノン!」。
市長は「もう笑うしかない。逆に闘志がわいてきた。絶対やってやるぞという気持ちになった」と心境を語る。 挑戦当日まで残された時間はあとわずか。肉をかき集め、徹夜で焼き台を作り・・・。関係者は東奔西走し、そしていよいよギネス世界記録挑戦の当日を迎えた。
■相次ぐアクシデントを乗り越えた
挑戦の当日、予想もしていなかったアクシデントに見舞われた。まずは会場付近で大渋滞になり、会場に時間内に到着できない人が続出。到着できた人だけで調理を開始し、遅れてきた人はその時点で参加できるように変更して開始することにした。
さあ、いよいよスタート。ところが、串に肉を刺し始めて10分も経たないうちに、串の溶接部分がポッキリと折れてしまったのだ。「串は1本でなくてはならない」とギネス世界記録の挑戦のルールブックには明記されている。関係者は真っ青になった。
しかし、認定に立ち会っていたギネス・ワールド・レコーズ社の日本代表であり公式認定員であるフランク・フォーリー氏(当時)は、溶接などで串を元通りに補修すればよいと判断。急きょ、その場で溶接して挑戦は再開した。
ところが、肉を焼いている最中にも再度串が折れた。さらに、当初の予定より串が長くなったことで、肉を刺すにも焼くにも時間がかかってしまい、炭の火が数カ所で消えそうになるなど、アクシデントが続出。そのたびごとに参加者も主催者も慌てふためいた。
[caption id="attachment_2304" align="alignnone" width="300" caption="串焼きの肉の測定の様子"][/caption]
肉を刺すことから焼き終えるまでにかかった時間は当初の2時間を大幅に超える5時間。参加したのは1710人。会場につめかけた1万5000人の市民と観光客の目の前で、ついに最後の1切れを市長が食べ終えた。
その瞬間、フォーリー氏の口から世界記録の認定が告げられた。そして、認定証が市長に手渡され、市長の胴上げや万歳三唱で会場は歓喜の渦に包まれた。
今回の記録達成で石垣島と石垣牛のPR効果は十分にあったと思われるが、今後は世界記録串焼きセットなどのご当地メニュー化も計画されている。また、来年度以降は八重山3市町が共催してのイベントや新たな記録挑戦も視野に入れているなど、この挑戦をきっかけに石垣島は新たな一歩を踏み出した。
市長の声が高らかに響き渡った。
(文章:ブランド総合研究所 田中章雄)
参考:石垣牛の世界記録挑戦の記事
※この記事は「月刊商工会」の連載記事「注目!地域ブランド」の記事として、2012年1月号に掲載されたものです