2020年の東京オリンピックに向けて、羽田空港のタクシー乗り場に変化が訪れている。外国人専用乗り場、ユニバーサルデザインタクシー・ワゴンタクシー専用乗り場が開設され、これまでの「タクシーといえばセダンタイプ」という既成観念を刷新しようとしている。今回はまず外国人専用乗り場について紹介する。
●優良タクシー乗り場の設置と定額運賃
羽田空港国際線ターミナルでは、外国人旅行客へのおもてなし向上にむけた取組みが積極的に進められている。その一つが「優良タクシー乗り場」だ。まず、この乗り場から乗れるタクシーは定額運賃制が取られており、運賃メーターを気にすることなく、目的地ごとに予め決まった運賃が適用される。たとえば外国人に人気の高い千代田区へは5,600円という設定(高速道路料金は別途)。グループで利用すれば、より割安感が実感できるだろう。
(図表出典:国土交通省プレスリリース)
●優良タクシー乗り場の入構条件
「優良タクシー乗り場」の工夫はそれだけでない。「優良タクシー」を銘打たれていることからわかるように、この乗り場に入構できるタクシーは限定されている。①公益財団法人 東京タクシーセンターの優良運転者表彰を受けた運転者、②法人タクシー事業者のサービス等に関する評価の優良事業者に所属する運転者であり、且つ、優良表示を掲出した車両、③個人タクシーの最高位「マスター(みつ星)」のいずれかが基礎条件となり、加えて指差し外国語シートの携行及びWELCOME ABOARDステッカーの貼付が条件とされている。(※優良タクシー乗り場は、羽田空港国際線の他にも、新橋駅や東京駅など都内13箇所に設置されている。)
<「優良タクシー乗り場」の入構資格及び条件>
(図表出典:公益財団法人東京タクシーセンター)
●「外国人旅客接遇研修」修了者専用レーンの仕組み
さらに2014年12月15日になると、「外国人旅客接遇研修」修了者専用レーンが供用開始となった。これはどういうことかといえば、「優良タクシー乗り場」で東京都のタクシーに割り当てられている8つのレーンのうち、2つのレーン(2016年1月現在で4レーンに拡充)について、「外国人旅客接遇研修」を修了したタクシーのみに交付される「専用レーン入構表示板」及び「車内表示ステッカー」を掲示しなければ、このレーンに入構できない仕組みになった。一方、この専用レーンに入構したタクシーは、通常の客待ちタクシーの順番を飛ばして優先的に並べるようになった。つまり「外国人旅客接遇研修」を修了したタクシーは客待ちの時間を短縮できるというインセンティブが与えられることになったのである。
<「外国人旅客接遇研修」修了者専用レーンの仕組み>
(出典:公益財団法人東京タクシーセンター)
●「外国人旅客接遇研修」の内容と入構表示板
この「外国人旅客接遇研修」はロールプレイングを取り入れた英会話のほか、指さし外国語シートの携行、同シートの活用方法、ドア・トランクサービスの励行などを内容としている。初級・中級、そして最近から上級コースも設定しているが、ドライバーからの人気が高く、平成27年10月までに5000人が受講を修了。これまで月一回(一回につき40人)開講していた研修を、平成27年度から月2回に回数を増やしているが、それでも毎回満席という状況だ。今後は、意欲の高いドライバーへのインセンティブを維持するために、入構条件を「中級以上の受講」に変更することも検討されているとのことである(東京タクシーセンター)。
●「外国人旅客接遇研修」修了者に交付される入構表示版と車内ステッカー
(出典:公益財団法人東京タクシーセンター)
言葉が通じないことが訪日観光客の大きなストレスになっている現況の中で、タクシー業界のこうしたおもてなし向上の取り組みは、訪日観光のイメージと満足度を高めるリーディングケースとなりそうである。
(執筆:金築俊輔 ブランド総合研究所 シニアコンサルタント)