地域団体商標の取得をきっかけに、ブランド認証基準を策定するなど、ブランド管理に積極的に取り組んでいるのが、岐阜県の飛騨木工連合会だ。
2010年11月末までに地域団体商標は日本全国で962件が出願があり、そのうち463件が登録された(2014年5月までに約550件が登録審査されている)。ただし、商標を取得するだけではブランド力が向上するわけではないし、売れ行きが高まるわけでもない。「商標は取得したが効果がない」と嘆く関係者も少なくない。
地域団体商標とは、2006年4月に商標法が改正されて新たに誕生したもの。基本的には「地域名+商品・サービス名」の組み合わせによるもので、「松阪牛」や「京つけもの」「九谷焼」など、その地域にある特産品や農水産物などが対象となっている。
飛騨木工連合会が「飛騨の家具」を地域団体商標として登録する必要性を感じたのは、海外からの輸入品などに「飛騨の家具」という名称をつけて販売したり、小売店などがむやみに「飛騨の家具」という言葉を使用したフェアなどの販売行為をしたりすることが横行し始めていたからだ。
■奈良時代から匠が築いた技術
飛騨高山地方では、奈良時代初期から宮殿造営のために毎年100人余りの「飛騨の匠」を貢進することを続けてきた。飛騨の山奥から良質な杉、檜などの木材を運ぶと同時に、高度な木工技術を持った職人をも多く輩出したわけだ。
平安京の羅城門、奈良の法隆寺、夢殿、唐招提寺、薬師寺など古代の日本建築の黄金時代を築いたのである。その血と技と、心を受け継いだ近世の匠が作ったのが、京都祇園祭、秩父夜祭と並んで日本三大美祭の一つ・高山祭の「屋台」なのである。
さらに、その技の伝承の集大成として日本でいち早く洋家具作りに取り組んで地場産業として発展してきた。特に、この地域に多いブナの木を大きく曲げる技術を取得し、それを使って製造した椅子が洋風家具として国内外で高い評価を得てきた。
■「飛騨の家具」を地域団体商標に登録へ
ところが、中国をはじめとするアジア諸国から低価格の家具が大量に輸入され、国内の業界には逆風が吹き始めた。しかし、彼らは「中国やアジア諸国の製品とは一線を画して、価格競争に巻き込まれないような質の高い家具作りを目指そう」と方針を明確にした。同時に、輸入家具などに勝手に「飛騨の家具」という名称を使わせないために地域団体商標の取得に踏み切り、平成20年1月に登録にこぎつけた。
そのころ、中国で日本の各地の地名が「商標」として登録されるという問題が取りざたされていたため、21年5月には台湾で、22年4月には中国で「飛騨家具」および「飛騨高山家具」の商標を登録した。
外部の業者に「飛騨の家具」という表記を勝手に使わせないという守りは固めたが、これだけでは消費者からの評価を高めることはできない。飛騨の家具がほかの産地で作られた家具よりいかに優れているかを消費者に知ってもらわなければ、価格面で中国製の家具との競争には勝てないからだ。
そこで、商標取得と並行して「飛騨の家具」の認証基準要綱の策定に取りかかった。その基準は産地、木材、品質、保証、デザイン、エコロジーの6つの分野から構成されている。
◆「飛騨の家具」認証基準要綱の内容(抜粋)
- 産地基準 飛騨木工連合会の組合員企業が製造した家具であり、製品の木部加工が飛騨地域内ですべて行われていること。
- 木材基準 飛騨の匠の時代から受け継がれている「木材に対する優れた目利きの技術」により選ばれた良質な木材を使用していること。
- 品質基準 PL法、消費生活用製品安全法、品質表示法など品質にかかわる法律等を遵守するとともに、飛騨木工連合会が認定した表示文、警告文、取扱説明書等が添付されていること。
- 保証基準 明確な保証基準書が添付されているとともに、木部の保証期間が10年間保証となること。
- デザイン基準 飛騨デザイン憲章を遵守している組合員企業が製造していること。
- エコロジー基準 地球環境、地域環境、健康に配慮した素材や原料等の使用および製造方法に取り組んでいること。たとえば合板・塗料・接着剤はホルムアルデヒドを含む6有害物質を除去した「F☆☆☆☆」を使用すること。
■基準に対する反対意見が続出
これらの基準を設けるということは、基準を守っていない場合には、高山で家具製造・販売を営んでいても「飛騨の家具」とは名乗れないことになる。そのため、会員の企業から「自分たちの産地の商標なのに、それを使えない商品があるのはおかしい」と、強い反対意見が噴出した。
実際に、原材料の大半は海外からの輸入に頼り、製造行程の一部分も他産地に委託している企業が高山にも少なくなかった。素材や製法の基準を厳しくすればするほど、コストアップにつながってしまう。そうなると、中国製の家具と価格面でますます差がついてしまう。売上や利益を圧迫してまで厳しい基準を満たすことが産地や企業にとっていいことなのか。参加企業の多くは疑問に感じたのだ。
何度も会合を開き、議論を重ねた結果、「価格面では中国産家具との競争に勝てる見込みはなく、国産家具の間でもますます産地間競争は激しくなっている。それならば、飛騨の家具は他の産地の家具より『差別的優位性』を明確にして、それを競争優位に導くか、価格プレミアムを創出するしか方法は残されていない」との結論に達した。21年4月には認定基準要綱の施行にこぎつけた。
ただし、この内容で決して十分というわけではない。環境や安全に対する消費者からの欲求はどんどん高まる一方だ。そして国内市場はますます厳しさを増している。だからこそ、いま飛騨の家具がめざすのは、世界中のどこよりも厳しい目標値を定め、飛騨の家具が日本一、いや世界一の評価を勝ち得ることだ。それを達成したとき、初めて飛騨の家具は国内外で最高級の「ブランド」という称号を与えられることになる。
◆商標にかかわる取り組み(抜粋)
- 平成20年1月 「飛騨の家具」「飛騨・高山の家具」を地域団体商標に登録
- 平成21年4月 認証基準要綱施行
- 平成21年5月 台湾での商標登録完了
- 平成21年11月 図形商標登録
- 平成22年4月 中国での商標登録完了
(文章:ブランド総合研究所 田中章雄)
参考:飛騨木工連合会
※この記事は「月刊商工会」の連載記事「注目!地域ブランド」の記事として、2011年2月号に掲載されたものです。