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おみたまプリン(茨城県小美玉市)

おみたまプリン(茨城県小美玉市)

2個セットで1万円!というすごいプリンがある。「日本で一番美味しいプリン」をコンセプトに、茨城県特産品開発事業として旧小川町商工会(現小美玉市商工会)が商品化をした「おみたまプリン」がそれだ。

2個セットで1万円!というすごいプリンがある。「日本で一番美味しいプリン」をコンセプトに、茨城県特産品開発事業として旧小川町商工会(現小美玉市商工会)が商品化をした「おみたまプリン」がそれだ。

茨城空港計画が打ち出された2000年、当時の小川町商工会青年部を中心に茨城県特産の農産品を使ってスイーツを作ろうという企画が立ち上がった。茨城県は鶏卵の産出量が日本一で品質を追求している生産者も多い。そこで、鶏卵を使ったプリンを作ろうということになった。

「どんなプリンを作ろうか」 開発する商品のコンセプトを議論していたとき、ある有名シェフの一言でその商品コンセプトが決まった。 「二極化時代の今、品質を取るか生産量を取るかしかない。それなら日本一高級なプリンを作ろう!」 

◆著名なシェフ、デザイナー、陶芸家が参画

発言の主は、東京・麻布十番にあった一流フランス料理店「ユリス麻布十番」のオーナーで、日本食農教育協会代表を務める多田鐸介シェフだった。

まずは日本一高級なプリンにふさわしい食材(鶏卵)探し。検討を重ねた結果、安全な飼料で育てられた平飼い鶏の「初生卵」のみを使用することとした。「初生卵」とは、鶏が産卵を始めてから1ヶ月以内に生んだ卵のこと。サイズは小さいが、味わい深く、栄養価が高い。また欧米で「バージンエッグ」と呼ばれるこの卵には特別な酵素が含まれているといわれており、“美容と健康によい幻の卵”として古くから大切にされてきた。もちろん、生産数も少ないため、一般の市場では流通しない貴重品でもある。

この卵を使い、多田氏と同店のパティシエの星野秀介氏が製造を担当することになった。プリンは低温でゆっくり焼けば焼くほど濃厚になるが、その際の微妙な温度管理がとても重要だったようだ。

そしてトータルデザインを小美玉市在住の世界的なデザイナー藤代範雄氏に依頼した。藤代氏はつくば万博のサインデザインを担当したほどの日本を代表するデザイナーで、世界の恒久平和を願うポスター「テロと報復」がフランスルーブル広告美術館に永久収蔵されている。

そのデザインに沿って、隣接する北茨城市の天心焼の陶芸家・會田恵美氏が湯のみ状の器を焼き上げた。この天心焼とは当市に日本美術院を設立した近代日本画家の岡倉天心にちなんだ焼き物で、北茨城産の蛙目(がいろめ)粘土と軟質粘土を利用して制作されたものだ。

こうして誕生した日本一高級な「おみたまプリン」は2005年の11月に早朝のテレビ番組で紹介されたところ、放送後わずか数分で完売してしまった。その後も期間限定、個数限定という販売方法により「手に入りにくい幻の最高級プリン」として大人気を誇り、特にテレビには30以上の番組で紹介された。

◆話題はあるが売れない・・・

いま、日本中で地域資源を活用した商品開発が取り組まれている。その中でもおみたまプリンのようにこだわりをもった商品を開発しているケースが多く見られる。国や県の補助金を活用して、試行錯誤の結果、一年がかりで新製品を開発する。その新商品を持ってバイヤーの集まる商談会に意気揚々と出かけ、たくさんの試食やチラシを配ってPRと商談に望む。

そこで発表した新製品は、地元新聞や全国の雑誌などに取り上げられて、そこそこ話題になる。まさに前途洋洋の滑り出しである。

ところが、商談会のときに多くの名刺は集まるが、具体的な商談にはつながりにくい。数社との商談は成立しても、(特にインターネット通販の場合はハードルが低く、商談が成立しやすい)、なかなかまとまった販売数にはつながらない。また、大手の流通との商談の場合は掛け率やロットなどでのハードルも高く、具体的な取引に至らないケースも多い。また、物産展などの一時的なイベントでの販売の話はあっても、それが継続的な取引につながらないと、なかなか収益的な魅力は乏しい。

せっかく努力しても商談がうまくまとまらない理由は、開発されたこだわりの商品(特に手づくりにこだわった商品)は製造力や賞味期限などの面で量産化には不向きで、一般の流通には適さないからだ。

おみたまプリンも同様。もともと初生卵自体が手に入りにくいために、1週間に10個程度しか作ることが出来ない。つまり、2個1万円とすれば完売しても月に20万円程度の売上にしかならないのでは、ビジネスとしての旨みはない。

◆ブランドを活用するには

では、どうすればいいのか。 その答えは、ブランドをつくるのと、ビジネスモデルをつくるのとは違うという点を理解することにある。2007年には、おみたまプリンが天心焼ではなく紙容器に入った8個入りの贈答用プリンが誕生した。こちらは量産が可能で、販売金額も8個入りで4000円。つまり1個500円である。

500円という金額はプリンとしては決して安くはない。しかし、2個1万円の最高級おみたまプリンと比べれば割安に感じられるし、なにより話題性がある。そのため、これがお土産やおつかいものとして人気が高いという。また、関連商品として「おみたませんべい」「おみたまアイス」などの商品化にもつながり「おみたまブランド商品群」としてシリーズ化が展開されている。

このように、シンボル的な商品によって高い認知度を得られたとき、売れて、収益性が高い商品にどのように誘導するかを考えることが重要である。 また、話題性のある商品を作り、評判を高める商品を作ることによって、その商品に込められた素材や技術、地域などの魅力を伝えることができる。おみたまプリンの場合、最高級のおみたまプリンはテレビなどで大きく取り上げられた。弊社の試算では、そのPR効果を広告費用に換算すると数億円にもなる。

こうしたPRによって小美玉市のイメージや、卵、天心焼などのイメージアップや認知度向上につながれば、それによって卵や天心焼などの販売が促進されるという波及効果が生まれる。

ブランドを作るという作業と、そこで作られたブランドを活用してビジネスを展開する。こうした二つのことをうまく組み合わせた中長期的な戦略(シナリオ)を作っておくことがブランド戦略には重要である。

(文章:ブランド総合研究所 田中章雄)

参考:おみたまプリン.com

※この記事は「月刊商工会」の連載記事「注目!地域ブランド」の記事として、2010年7月号に掲載されたものです。

 

この記事のライター
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