昨年9月に秋田県横手市で26の地域(団体)が参加して開催されたB級ご当地グルメの祭典「B-1グランプリ」に、2日間で26万7000人もの人でにぎわった。このイベントに代表されるように、いまB級ご当地グルメで地域おこしをしようという動きが日本各地で見られている。
多くの地域は、イベントでその地域の食や町をPRし、関連商品の発売や観光集客に結び付けようというものだが、B級グルメがブームになる前から、純粋にB級の郷土料理を使ってまちおこしをしている地域がある。埼玉県川島町だ。
川島町の自慢のB級郷土料理は「すったて」。これは、簡単に言えば、冷たい味噌汁にうどんを入れたようなもの。「冷汁うどん」という地域もあるが、川島町では「すったて」と呼んでいる。
すり鉢で胡麻をよくすってから、味噌とみじん切りのタマネギ、大葉を加えて胡麻とすり鉢で合わせる。そこに輪切りのキュウリやミョウガを合わせた後、冷たい井戸水か出汁で伸ばした中に氷を浮かべ、茹でたうどんをつけて食べる。 ちなみに宮崎県にも「冷やし汁」というのがあるが、こちらは「あじ」などの魚を材料としており、微妙に異なっている。
◆氷を浮かべた味噌汁?!
この「すったて」に目をつけたのは川島町商工会。経営指導員を務める宮下成和さんが、B級グルメを活用した地域活性化を目指している。
宮下さんは元々は名古屋の出身だが、平成14年に川島町出身の奥さんと結婚したのを機に同町に移り住んだ。ある日、義母が作ってくれたすったてに魅了されてしまった。それまで熱い味噌汁しか知らなかった宮下さんにとって、氷を浮かべた味噌味の冷汁につけて食べるうどんはとても新鮮だったからだ。
「すったてでまちおこしをしよう」と思い立ってからの行動は早かった。まずは埼玉県庁に提案書とともに補助金の要請を出した。この要請が通り、平成19年3月に町内の約50店舗の飲食店に対して、すったてでの地域ブランド化プロジェクトを案内し、メニュー化を打診する。そして16店舗のプロジェクトへの参加が決まったのだ。続いて試食会や説明会、地域ブランドの講習会を精力的に開催し、参加メンバーの意欲向上と基本知識の習得にも注力した。
◆スタートは16店から
各店は味や器、提供方法などにそれぞれ工夫をして、同年6月中にはすったてをメニュー化した。それに合わせるように、商工会はののぼりを制作したり、「すったてMAP」を作成したりするなど、PRに取り組んだ。
こうした努力が実を結び、6月21日にはNHKの首都圏向け番組「こんにちは いっと6けん」で、すったてが特集として取り上げられた。すると、提供店の問い合わせや作り方の紹介依頼、激励のメッセージなどが数多く寄せられたのだ。さらに8月初旬には大型ショッピングセンターの敷地の一部を借りて、すったての試食会を実施し、2日間で約2000食を無料で配布した。
こうした活動は内外へのPRという効果もあるが、町内での活動の周知を高めて、テンポや関係者のやる気を起こさせる面で、特に大きな効果があった。 もちろん、ランチのオーダーのほとんどがすったてになった店や、新しいお客が土日に押し寄せた店など、各店の活性化にもつながり始めた。
◆季節限定から、冬の商品開発へ
ところが、宮下さんには新たな悩みも浮かんだ。つまり、すったてとは夏の食べ物であって、冬は注文する人がほとんどいなくなることだ。
そこで、冬場の名物料理として、これまた川島町に伝わる郷土料理「呉汁」をベースにした「かわじま呉汁」を完成させた。これは、すりつぶした大豆と、里芋の茎の皮をむいて天日で乾燥させた「芋がら」、10種類以上の野菜を土鍋か鉄鍋で煮込んで提供するものだ。
つまり、冷汁で食べるすったては夏限定とし、販売は5月から9月。そして1ヶ月の準備期間を経て、11月から3月にはかわしま呉汁を販売するのだ。
◆都会に一番近い農村
ところで川島町の地域活性化計画の構想は、なにもすったてだけに終始するわけではない。川島町のキャッチフレーズは「都会に一番近い農村」である。そのためには「農村らしいものはなにか」を考え、「都会に近い農村」としての強み(武器)を明らかにして、それを活用した商品やサービスを具現化することが重要だった。
川島町の場合、それが田舎暮らしや野菜作りに憧れる都会在住の人々を対象とした、農業の体験イベントなどを随時開催し、交流人口を増加させることにあった。すったても、昔の農作業の中で食べたように、そのイベントの中で食べられるようにすることと、川島町を知ってもらい、足を踏み入れてもらうための機会作りという二つの狙いがあった。 ただ、飲食店を集めて提供するだけでなく、他の地域で真似のできないような統一の付加価値を付けて展開していくことが「地域ブランド化」には重要なポイントである。
B級グルメは、その地域に根付いている郷土食を、一般大衆に受け入れられるようにするもの。単なる食のイベントを目的としているのではなく、食をきっかけに町が元気になるような新たなビジネスモデルを作ることが重要だ。 すったてはその語源どおり、すりたての風味豊かな企画ではあるが、ここには川島町の目指すべきコンセプトが溶け込んでいるのだ。
(文章:ブランド総合研究所 田中章雄)
外部リンク:すったて かわじま呉汁(川島町商工会)
※この記事は「月刊商工会」の連載記事「注目!地域ブランド」の記事として、2010年5月号に掲載されたものです。
すったてでまちおこし (埼玉県川島町)
川島町の自慢のB級郷土料理は「すったて」。これは、簡単に言えば、冷たい味噌汁にうどんを入れたようなもの。「冷汁うどん」という地域もあるが、川島町では「すったて」と呼んでいる。
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