ご飯の下に具を隠し、上から出汁(だし)をかけて食べる。400年前から福山市で食されていた料理が「ご当地グルメ」として人気急上昇。しかもラーメンからかき氷、弁当と拡大している。福山市の行政と市民が協働で展開している取り組みだ。
一見すると、ただの白いごはん。そこに出汁をかける。「お茶漬けだ」と思ってご飯を箸で持ち上げると、中からエビや鯛などの具が出てくる。これがいま広島県福山市で人気急上昇している「福山鯛うずみ」だ。
「うずみ」の由来については諸説あるが、一般的には「うずめる」からきたとされている。江戸時代に福山藩の初代藩主だった水野勝成が行った倹約政治で、鶏肉、えびなどは贅沢品とされ、庶民は堂々と口にできなかった。そこで、秋の収穫の時期に、秋の味覚の具を飯で隠しながら食べるようにしてお祝いをした。伝統的なうずみは、小エビ、里芋、松茸、豆腐、にんじん、鶏肉、こんにゃく、油あげなどを一口大に切り、いりこ出汁や醤油などで味付けして煮たものを器に入れ、その上に炊いたご飯をのせて隠す。
実は、島根県津和野や浜田などに伝わる「うずめ飯」も、具材をご飯で隠して食べる郷土料理。椎茸やニンジン、かまぼこ、高野豆腐などの具をご飯で隠す。ちなみに、宮古島の「宮古そば」は、めんの下に豚肉などの具が隠れている。理由はいずれも福山と同じように慎ましやかに見せるためと言われている。
さて、福山に伝わるうずみも、昭和40年代頃までは、主に収穫を祝う料理として、よく食べられていたという。ところが、食生活の変化により、次第に地元で食べられなくなってしまった。
平成に入り、郷土の食文化の歴史を伝える目的で、市内の小学校の給食メニューとして提供されるようになり、また、市民講座やイベントなどでも郷土の食文化として、うずみが取り上げれられることが増えてきた。
そんな中、市制施行95周年目の節目にあたり、市民協働で福山ならではの食ブランドの創出に取り組む目的で、2010年3月に「福山食ブランド創出市民会議」が設置されたことも、郷土料理としてのうずみが見直されるきっかけとなった。
◆「質素」を「楽しみ」に転換
10年5月に福山市で行われた「福山ばら祭」で創作料理のコンテストとして催された「福山ぶちうまグランプリ」で、1000人の市民の試食投票によって「福山鯛うずみ」がグランプリに選ばれた。これは福山の特産品である鯛を具としたうずみ。その食べ方には、ちょっとしたきまりがある。
まずはそのまま食べる。次に出汁をかけて楽しみ、さらに薬味を入れて楽しむ。1つのうずみで、3回の違った味が楽しめるという食べ方も提案してある。つまり、具を隠すのではなく、ご飯の中から美味しい食材を見つけ出すという楽しみに転換したものだった。「質素」から「楽しみ」に転換できたとき、新しい「ご当地グルメ」が誕生したことになる。
そこから事態は思わぬ方向に動き始めた。なんと、鯛以外の瀬戸内の魚でうずみを作ったり、旧来型のうずみが復活したり、あるいはまったく新しい創作うずみが誕生したりし始めたのだ。そこで前出の「福山食ブランド創出市民会議」は具は鯛にこだわらず、広い意味で捉えた料理「福山うずみごはん」を「福山市民の誇りとなり得る食ブランド」として提言した。
うずみの進化は加速した。市内の元町青年会が、夏祭りの屋台でかき氷の下にフルーツを埋めた「氷うずみ」を考案し、販売しはじめた。これは一見しただけでは普通のカキ氷。ところが、その氷の中には一口サイズの白桃やみかん、パイナップルなどのシロップ漬けが隠れているというものだ。
福山青年会議所では、市内の様々なうずみ提供店舗をまとめた「福山うずみマップ」を同年10月に作成し、配付を始めた。掲載されているのは現在49店舗。その中には福山鯛うずみをはじめ、和菓子うずみ、パスタうずみ、フルーツうずみなど様々なものがある。それを、和風、洋風、デザート系などの分類分けのほかに、最初から出汁がかかっているもの、味の変化を楽しめるものなど、食べ方の違いがわかるようになっている。
福山青年会議所による福山うずみごはんの定義(ルール)は以下のとおり。
- メインの具材が埋められている。
- スープ、出汁、あんかけ、シロップ・味噌などをかけて2度楽しめる料理もある。料理によっては、さらに薬味を添えて3度楽しめるものもある。
- 何が埋まっているのかワクワク探しながら食べる。友人と一緒の場合は「これが入っている」「これも入っている」とワイワイ楽しみながら食べる。
- うずみメニューを隠しているお店もある。福山の飲食店に入ったら、メニューに書かれていなくても 、「うずみ料理おいとらん?(置いてないですか)」と聞くのが福山通。裏メニューで置いている店もある。
- 何が埋められているかは、食べた人だけの秘密として、決して口外したりWEBに書き込んではいけない。
◆進化するうずみ/カキ氷にラーメンまで
11年9月には福山食ブランド創出市民会議の女性委員が考案した「うずみ弁当」が、学校給食の栄養士ら約30人を集めて行われた試食会で披露され、同年10月9日の「福山グルメフェスタ」で販売された。
10月には「福山うずみごはん」のイメージキャラクターが決定。12月には「福山鯛うずみラーメン」が登場した。開発には福山市の製麺業と地元のラーメン店が参画。うずみ専用の特製麺の下に、鯛のかき揚げを埋める。それ以外は提供するラーメン店で自由に工夫するというもの。
そして今年5月の「福山ぶちうまグランプリ」では創作うずみと、うずみ弁当の2部門で、新たにレシピやアイデアを募集するという。
400年続く郷土料理をご当地グルメという新しい「文化」として蘇らせた福山うずみごはん。現在、うずみの提供店は60店舗にものぼるが、その進化はまだまだ続きそうだ。
(文章:ブランド総合研究所 田中章雄)
参考: 福山食ブランド創出市民会議
※この記事は「月刊商工会」の連載記事「注目!地域ブランド」の記事として、2012年4月号に掲載されたものです